書評・エッセイ

2012年12月号掲載

立川談志一周忌追善特集

2年前の座談と甘く見るなかれ ~この日を境に世界はどう変わったのか?

――立川談志・ビートたけし・太田光『最後の大独演会』

高橋洋二

対象書籍名:『最後の大独演会』
対象著者:立川談志・ビートたけし・太田光
対象書籍ISBN:978-4-10-306942-3

 二年前の初夏、立川談志からビートたけしに宛てて「久しぶりに会おうか」とメッセージが届き、たけしは太田光を誘って三人で会うことになった。本書に収められた鼎談が行なわれたのは二〇一〇年六月十五日である。
 この日時をどうか頭の中に留めて読み進めていただきたい。何なら白い紙を用意してメモを取るのもいいかも知れない。
 たけしが太田を誘った理由を思いつくことは容易である。70歳代の談志と60歳代の自分を結ぶ線を真っすぐ若い方に降ろせばそこには40歳代の太田がいる。線の長さはそのくらいがちょうどいいと考えたからではないか。
 太田は二〇〇七年十月にDVD「笑う超人 立川談志×太田光」(コンテンツリーグ)を作った。談志の高座を太田の演出で複数のカメラで撮り、自ら編集した。二人の芸談も収録している。また同月からTBSラジオで「立川談志・太田光 今夜はふたりで」という、異例のノンストップ・イリュージョン番組を始めている。このふたつの現場に私は構成者という立場で立ち会っていたが、二人が高いレベルで理解し合っているのを感じた。翌二〇〇八年三月に番組は終了、六月に談志は入院そして退院。二〇〇九年八月より長期休養を発表した。二〇一〇年四月に八ヶ月振りに高座に復帰、このような流れでの冒頭の「久しぶりに会おうか」なのである。
 それにしてもこの鼎談から噴出する幸福感は何なのだろうか。付録のCDに収められた同録を聴けば誰もが感じることだろう。「大好きな人と話をするのはなんて嬉しいことなのだろう」そんなシンプルな道理の力強い実例である。今、目の前にいる談志を笑わせたい。たけしは若手の頃の自分の感覚を味わっているようだ。しかしそのやりとりも時には一筋縄には行かない。談志のある発言に、太田が言うところの「たけしさんが本気で困った顔するの珍らしいですよ」という状態にも陥る。このことがまた、たけしを更に回春させていたかも知れない。
 たけしにしてみればこの日は監督作品「アウトレイジ」が公開されたばかり、鼎談の中で早くも次回作の構想に触れている。ヤクザ会議が開かれ、全国から親分が集まるが撃ち合いになり全員が死ぬ、と。この年の九月にその作品の製作が発表される。(当時のタイトルは「アウトレイジ2」)
 翌二〇一一年は三月に東日本大震災があり、撮影のスケジュールはいったん白紙になる。撮影再開に向けて動き出すこの年に、たけしはテレビの現場でひとつ印象的な特別番組を作った。九月二十八日放送の「北野演芸館 たけしが本気で選んだ芸人大集合SP」(毎日放送)である。たけしが演芸場の支配人、ガダルカナル・タカが副支配人に扮し、「今、面白いと思う芸人」に直接出演交渉し、ネタを披露してもらうという内容。ナイツ、オードリー、サンドウィッチマン、友近、東京03、中川家など30歳代を中心とした総勢17組の芸人が登場した。ここで多くの視聴者が驚いたのは、たけしが彼らのネタを普段からよく観ていて、的確な分析をしていることだった。ネタばかりでなく例えばインパルスについては、「こいつ(板倉)の書いた小説(「トリガー」)も読んだけど面白くてさ」と話しかけ、一同が本気で、そこまで見てくれてるんだ、と息を呑むひと幕もあった。以前から「実はたけしさんは意外なほど若手の芸人に詳しい」とは言われていたが、その意外なところをここに来て全開にしている印象だ。なぜだろうか?
 今にして思えばそれは二〇一〇年六月の本書の鼎談により、芸人が世代を越えてつながるってのはいいもんだ、と強く意識付けられたからではないかと思う。この素晴らしい特番は翌二〇一二年にも二月、七月、十月と現在までに四回、放送されている。
 さらに十月は新番組「日曜ゴールデンで何やってんだテレビ」(TBS)を、初共演の石橋貴明(50歳代)と組みスタートさせている。「今、腹をかかえて笑えるものは何か?」ふたりが企画し実行していくバラエティである。出演する芸人は関東勢が中心のようだ。
 二年前の六月十五日に、談志、たけし、太田とつながった「関東の芸人」の一本線が今多くの線に分派している印象だ。
 完成した「アウトレイジ ビヨンド」は、関東のヤクザが関西勢に手も足も出ないままに全滅する内容だった。
 談志に着火された火は、この先どうなっていくのか? ちょっとドキドキしている。

 (たかはし・ようじ 放送作家)

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