書評・エッセイ

2012年5月号掲載

今回は、中華版インディ・ジョーンズ!

――仁木英之『鋼の魂 僕僕先生』

福田和代

対象書籍名:『鋼の魂 僕僕先生』
対象著者:仁木英之
対象書籍ISBN:978-4-10-137436-9

 お待たせしました!(と言っても、私がお待たせしたわけじゃないですが)
 島原の乱後に光を当てたスーパー忍法帖『くるすの残光』、ギリシア神話に取材した『魔神航路』、自家薬籠中の中国史を取り上げた『五代史』『千里伝』など、多彩な物語群で快進撃を続ける仁木英之さんの『僕僕先生』第六巻は、「宝探し」のお話です。このシリーズで宝探しって、いかにもありそうなテーマなのに、今までなかったのが不思議なくらいじゃありませんか?
 あ、申し遅れました。ここに改めてご紹介する必要もないと思いますが、『僕僕先生』シリーズは、元エリート県令である父親の財力に甘え、ぐうたらな日々を送っていたニート青年の王弁くんと、ひょんなことから彼が師事することになった美少女仙人「僕僕先生」の物語です。何千、何万年も生き続けていながら、なぜか愛らしい少女の姿をしている僕僕先生に、淡い恋心を抱きつつ旅を続ける王弁くん。彼は「ちょっぴりの」仙骨(仙人になるために必要なタネのようなものらしい)と、「たっぷりの」仙縁(仙人や妖怪変化に出会う運のようなもの?)を持って生まれてきたらしいのです。この「ちょっぴりの」仙骨、というのが大きなポイントだと私は思うのです。仙人になる才能とでも言いましょうか、それに溢れているわけではない。持って生まれたのは、ほんの少しだけ。だけど、たいていの人間って他人に誇れる「ちょっとした」自分を持っていて、それを自覚することで何とか頑張って生きていけるんじゃないかしら。だからこのシリーズは、決してたっぷり仙骨を持った王弁くんをびしばし鍛えるスポ根物語にはならないのです。ちょっぴりの仙骨を抱いて生まれた王弁くんが、気張らずさして意気込まず、心のままに、時には僕僕先生の甘い言葉に翻弄され、時には手ひどくからかわれつつ、じっくりと成長していく話なのです。
 ――それにしても。
 第一巻では、父親の財産をもってすれば、百まで仕事をせずにぐうたら生きても安泰だなあ、なんてのどかなことを言っていた王弁くんの、なんとたくましく成長したことか。
 巻を重ねるたびに、悲しい恋を経験した妖(あやかし)の薄妃、皇帝直属の暗殺者集団「胡蝶」の一員である劉欣、天馬の吉良など、魅力的で個性的なキャラクターを増やしてきた当シリーズですが、最新作『鋼の魂』で満を持して登場するのは、捜宝人・宋格之。「胡蝶」に所属するトレジャー・ハンターなのです。隠された宝を探しだす能力に長け、心ならずも盗賊呼ばわりで幽閉されていた彼の才能を理解し、生かそうとしたのが「胡蝶」の頭目でした。捜宝人が皇帝直々の下命を受けて探索に乗り出した幻の宝物とは、西南の地に埋まっているという鋼の神。しかもどうやら、神仙の助けなく鋼の神を発見することはできないと言います。さあ、どうする捜宝人!
 捜宝人と僕僕先生御一行とが、どう出会い、どんな事件が起きるのかはお読みになってのお楽しみ。ただ言えることは、安逸に慣れ、酒を呑んで楽しく生涯を終えて悔いないはずだった王弁くんが、狭い世界から飛び出して、一作ごとに広い世界に目を開かれて自分を磨く、その過程の大きなひとつとなるだろうということです。今回も、僕僕先生と王弁くんの楽しくほんわかした掛けあいや、旅を共にする多彩な仲間たちの、何気ないけれど胸を打つやりとりは健在です。初登場の捜宝人・宋格之が直面する、大国のエゴに翻弄される小国の悲哀と、それに対する彼の覚悟が心に響きます。宋格之を親の仇と呼ぶ美貌の女剣士・呉紫蘭、程海をとりまとめる首領・馬銀槍など、新しいキャラクターも続々登場。
 そして――これ書いちゃっていいのかな――、何と言っても今作の目玉は、湖底の魔宮! 中華版インディ・ジョーンズばりの、派手な大活劇をどうぞお楽しみに。
 忍法帖を書いても、ギリシア神話を書いても、仁木英之は必ずここに戻ってくる。魂の芯で構成された物語。『僕僕先生』とは、仁木さんにとってそういうシリーズであろうと思います。これからも、どんどん書いて私たち読者を楽しませてくださいよ!

 (ふくだ・かずよ 作家)

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