インタビュー

2012年6月号掲載

『日本の聖域 偽装の国』刊行記念 インタビュー

権力との緊張関係を貫く

湯浅次郎

湯浅次郎

対象書籍名:「選択」編集部編『日本の聖域 偽装の国』
対象著者:「選択」編集部
対象書籍ISBN:978-4-10-127242-9

――「選択」は会員制の総合情報誌ですね。書店で売っていない上に、広告も毎月の発売日だけ、しかも掲載は新聞一紙のみです。どのような雑誌なのでしょうか。

 年間定期購読のみを受付けていますから、目にすることはないでしょうね。読者には毎月一日に郵送でお手元に届けています。B5判百十六ページで、国際情勢、国内政治経済、そして社会文化と、二~四ページの読み切りの記事を各号三十五本ほど入れています。創刊は一九七五年ですが、購読料は三十七年間、変えていません。

――今回まとめられた『日本の聖域(サンクチュアリ) 偽装の国』は、連載「日本のサンクチュアリ」が基になっていますね。

「サンクチュアリ」は創刊当初から続いている本誌の名物連載です。日本には、誰も問題点を指摘しないために、無駄や利権の温床となってしまった組織や制度が多くある。しかもそれらは概ね権力と繋がっている。本書はこの二年間の連載分ですが、厚労省や児童相談所、日本赤十字社、記者クラブなど、二十五のテーマを取り上げています。すっかり利権と化してしまった福島の除染事業や、行政の無能のために拡大している子どもたちの被曝なども、リアルタイムに伝えました。

――当連載もそうですが、辛辣な記事が多いのが「選択」の特徴ですね。企業に関しても、名指しで批判しています。通常の記事以外にも「企業研究」「罪深きはこの官僚」などの連載でも同様です。

 現在の日本のマスメディアは、「しがらみ」に雁字搦めになっていますね。たとえば広告ですが、広告主を気にしていたら経済記事は書けません。本誌は広告収入を雑誌の「余禄」としか考えていません。記事中には三分の一広告を一本、他は表2から表4のカラー三本だけ。一時は美術展の案内を無料で入れていたこともあります。しかも広告主であっても、躊躇うことなく実名で批判記事を掲載します。それでご縁が切れることもありますが、きちんとした会社ほどそのまま広告が続くケースが多いですね。

――「選択」の記事は五つの連載を除いて、すべて匿名ですが、それはどのような理由からでしょうか。

 カネや利権に塗れた者ほど、記事に対し報復に走る傾向があります。執筆者は第一線の記者やジャーナリストですが、権威や大組織には個人で立ち向かうのは難しい。真実を詳らかにするために、執筆者には「しがらみ」を棄てて後顧の憂いなく筆を揮ってほしい。その後の責任は編集部が引き受けるとの判断で、筆者無署名記事にしています。

――想定している読者層はありますか。

 新聞・雑誌を読んで、まだ飽き足らない人たちですね。執筆者には「全国紙を二紙精読している人が相手だと思って下さい」と説明しています。同じ情報を誌面でリフレインする必要はありませんから。基本の話はすでに知っていて、さらに本誌を読んでいたら、情報としては他の人に遅れは取らないと自負しています。

――雑誌の表紙に「三万人のための情報誌」というキャッチフレーズを付けていますね。これは現在の部数ということでしょうか。

 いえ、現部数ではありません。それは創刊時、日本における各界の指導者層をおおむね三万人と推計し、その層に読んでいただきたい、という意味でつけられたものです。現在、おかげさまで部数はもっと出ていますが、たくさん売ろうという意思は、端からないという意味でもありますね。

――ここ数年で総合月刊誌は休刊が相次いでいます。そうした状況を見て、どう考えますか。

 それは月刊誌という形態が時代にそぐわなくなったから、ではないと思います。速報性も大切ですが、それでも国民が知らない、隠蔽された事実はいくらでもある。それを明らかにする作業は、月一回の発行でも充分補うことはできます。さらに言えば、権力との緊張関係を貫けば、横槍が入ったり、抗議があったり、訴訟に発展したりすることも多い。それは雑誌にとって面倒ですよ。だからそうした硬派な記事が減ってきたのではないでしょうか。でも私は、ジャーナリズムとは、権力が踏み潰したくなるような仕事を指すのだと考えていますから。

 (ゆあさ・じろう 月刊誌「選択」編集長)

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