書評
2012年10月号掲載
『人生で大切なことはみんなマクドナルドで教わった』刊行記念特集
人は働くことを通して成長する
――鴨頭嘉人『人生で大切なことはみんなマクドナルドで教わった』
対象書籍名:『人生で大切なことはみんなマクドナルドで教わった』
対象著者:鴨頭嘉人
対象書籍ISBN:978-4-10-332881-0
「人は働くことを通して成長し磨かれる。やっぱり全ては人なんだ!」
これが本を読み終えた時の最初の感想でした。著者の鴨頭さんは、最初からマクドナルドでの仕事をしたいと心から思って働き始めたわけでは無く、友人の誘いから成り行きで一緒に働くことになりました。しかも、働き始めて直ぐにスイッチが入ったのではなくて、サボったり失敗したりを繰り返しながら、仕事の本当の意味に目覚めていきます。僕は多くの人がそうなんじゃないかなあって思います。
ただ、マクドナルドと言えば世界一と言えるほどの、しっかりとした人材育成プログラムがあり、そのプログラムは時代に合わせて常に進化を続け、全世界どこの店舗に行っても感じの良いスタッフがもてなしてくれます。事実、海外に行って、言葉も通じず食べるものも合わない時、あのMの文字の看板に心が救われる経験をした方も少なくないんじゃないでしょうか。
マクドナルドがそれほどの信頼を得ているのは、優れた人材育成の仕組みもさることながら、その仕組みを実践する上司や先輩に心が備わっていることも大きいはずです。優れた人材育成の仕組みも、心が備わっていなければただの道具に過ぎず、人を成長させることは出来ません。この本の中にはそうした心ある上司や先輩たちがたくさん登場します。
第1章に登場する、著者とは正反対の控えめで目立たない存在の青田君。卵を素早くキレイに正確に数多く割ることの出来る彼に、表面上の結果だけを見て著者は、「青田君は卵の化身エッグマンだね」と嫉妬まじりのコメントを吐きます。実は、もともと不器用だった青田君は、神業のような割り方を修得するまで、毎日スーパーに寄って稼いだバイト代で卵を買い、家の台所で必死になって練習していました。その陰の努力を理解して、著者に伝えてくれた社員マネージャーの宮下さん。
店のモラルが崩れ、社員とバイトが慣れ合いの関係になってしまったチームに、徹底したモラル改善を断行する社員の今田さん。その行動は一旦は仲間からの批判を浴び、陰口を言われますが、それでも周りに流されず行動する今田さんに、著者がその真意を尋ねると、「ハンバーガーの作り方を教える事が社員の役目ではなく、いずれ社会に出るであろうアルバイトが不幸にならないように、人として社会に貢献できる大人に成長させることが僕ら社員の使命だ」という本心が語られます。そこには部下に対する揺るぎない愛情が感じられます。
仕事をはじめて3カ月しか経っていない著者を、フロア担当チームの意識改革の為に、「マクドナルドの甲子園」AJCC大会の選手に大抜擢する社員マネージャーの大川さん。通常であれば元々その業務を行っている先輩たちが選出されるところを、あえて経験の浅い著者の特性を見抜き抜擢し、結果著者もチームも大きく成長することができたエピソード。
これらのエピソードからも、チームに関わる先輩や上司の方々が、優れた人材育成の仕組みだけに頼るのではなく、アルバイト一人ひとりに関わる際に、根底に絶えず相手を認めその相手の未来の力を信じる“愛”が感じられました。この「愛こそが人を育て成長させるものだ」という信念が、その後著者が新規開業店舗の店長になった時、「信じられるかどうかではなく、信じると決めてしまう」方針を立て、売上伸び率日本一を達成し「最優秀店長」に選ばれた根底にあったのだと思います。
本書を最後まで読むと、著者が最初の頃とは比べ物にならないくらいの成長を果たし、チームを最高の状態に導く本物のリーダーになっているのが分かります。著者の成長物語を追っていると、人を成長させるマクドナルドという企業の凄さ、素晴らしさを自然に感じ取ることができました。どうかこの著書が多くの人に読まれ、読み終えた後の僕のように、自分の仕事スイッチがONになる人達が増えてくれる事を願っています。
(かとり・たかのぶ 『社会人として大切なことはみんなディズニーランドで教わった』著者)