書評・エッセイ

2012年11月号掲載

空想する楽しさを思い出した

――令丈ヒロ子『茶子と三人の男子たち S力(エスリキ)人情商店街1』(新潮文庫)

藤麻理亜

対象書籍名:『茶子と三人の男子たち S力人情商店街1』(新潮文庫)
対象著者:令丈ヒロ子
対象書籍ISBN:978-4-10-127041-8

 魔女になりたい――わたしは本気でそう願う小学生でした。きっかけは、三年生のとき、ふつうの女の子が魔法を使えるようになるお話を読んだことです。ハリー・ポッターのような特別な存在ではなく、ごくふつうの女の子が魔女になるお話。繰り返し読めばそのうちに秘密がわかって、もしかしたら、わたしだって魔法が使えるようになるんじゃないか。真剣にそんなことを考えて、何度も読みました。
 あの頃は魔法のほうきを手に入れる夢をみたりして、朝起きてきょろきょろと部屋を見回すこともありました。でも、さすがに高学年になる頃には、現実に目覚めはじめた友達の影響もあって、「無理なんだなぁ」と諦めざるを得ませんでした(笑)。
 中学生の茶子と幼なじみの少年三人が、地元の神社にまつられた「塩力様」からS力(エスリキ)(しょぼい超能力)を授けられ、さびれかけた商店街再生のために立ち上がる「防衛隊」を結成するというこの本に出会って、久しぶりに、魔女になるのを夢見て毎日わくわくしていた頃の気持ちを思い出しました。そして、改めて、大人になってもこういう気持ちはぜったいに忘れたくないって思いました。
 中学生ってけっこう忙しいんです。勉強に部活動、塾にピアノや水泳などの習い事……。でも、だからこそ、時にはこういうゆったりした物語を読んで、空想する楽しさを味わいたい。みんなにも味わって欲しいと思います。
 サブタイトルにあるとおり、物語の舞台は商店街です。わたしが生まれたときからずっと暮らしている東京の下町にも小さな商店街があります。シャッターを閉めたままのお店もちらほらあって、ちょっと傾きかけているところも物語と同じです。なので、地元商店街と重ねて身近に感じながら読み進むことができました。
 とにかく、登場人物がみんな個性豊かで楽しいんです。わたしは女の子なので、主人公の茶子に共感しながら読みました。幼なじみの男の子三人も、それぞれに魅力的です。花屋の吉野くんは、いかつい体つきに似あわず性格がちょっと女の子っぽくて、とてもやさしい。熱血少年顔の吾郎はやんちゃだけど、いざとなると一番頼りになるタイプかもしれない。写真館の研は、「ぜったいこうなる」と言うと反対のことが起きる「マイナス屋研ちゃん」なところがおもしろい。他にも、塩力様はかわいいおじいちゃんだし、小出水(こいでみず)薬局のばあさまも、いい味出してます。
 羨ましかったのは、商店街会長の奥さんが作ってくれる親子丼。すごくおいしそう! こういう「地元」っていう感じの場所で、顔見知りのおばさんが「さあさあ、ご飯食べていきなさい」って食事を出してくれるのには、とてもあこがれます。
 もうひとつ見逃せないのが、茶子たちが迷ったときに頼りにする「ちゅんちゅんみくじ」です。修学旅行の時にお寺でおみくじを引きましたが、二百円くらいするし、普段はあまり引けません。でも、塩力神社の「ちゅんちゅんみくじ」は、わずか十円でありがたいお告げを届けてくれます。そんなおみくじが近くにあったらいいですね。
 でも、何より、この物語のいちばん好きなところは、茶子たち四人の篤(あつ)い友情です。わたしにも幼稚園から小学校、中学校とずっと一緒の仲良しがいます。「こういう心から信頼できる幼なじみって、たしかにいるよね」と、友達の顔を思い浮かべながら読みました。超能力がでてくる非日常的な話ではあるけれど、いちばん大切なテーマは友情なのだと思います。
 だから、続きがとても楽しみです。二巻、三巻、四巻と続くうちに、四人の関係がどうなるのかすごく気になります。ちょっと怪しい雰囲気の千原(ちはら)先輩の存在も含めて、人情商店街のみんなの人間模様はどうなっていくんでしょう。えっ、茶子が重大な選択を迫られるんですか? わたしだったら、どうしよう……。(談)

 (ふじ・まりあ 中学三年生・『ニコラ』モデル)

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