書評・エッセイ

2013年4月号掲載

早期内定100%の就活指導

――竹中紳一『就活先生 内定を勝ち取るための31のステップ』

野村進

対象書籍名:『就活先生 内定を勝ち取るための31のステップ』
対象著者:竹中紳一
対象書籍ISBN:978-4-10-333711-9

 このところ毎日のように、作文の添削にいそしんでいる。
 大学の三年ゼミ生たちがメールで送ってくる履歴書や、「エントランスシート」という企業への志望書(通称“ES”)のすべてに手を入れ、返送しているのである。
 年末から早春にかけては、就職活動の“スタート・ダッシュ”の時期で、就職を希望する三年生は、ひとりで多い場合なら数十社から百社を超える企業に、こういった書類を提出している。いま私のゼミに三年生は十三人いるから、けっこう時間をとられる作業ではある。
 私の学生時代を振り返れば、ここまでする必要はなかろうとも思うのだが、ゼミ生ひとりひとりへの理解はまちがいなく深まった。たとえば、「逆境を乗り越えた経験」というESの課題文に、中学時代、執拗なイジメにあったものの、母親に励まされながら一日も学校を休まずに通ったことが、いまでは自信につながっていると書いてくる女子学生がいる。あるいは同様の課題文に、大学受験で志望校に入れずコンプレックスを抱いてきたが、ロンドンでの短期英語研修で知り合った民族も年齢もことごとく違う生徒たちと付き合ううちに、そんな劣等感がばかばかしく思えるようになったと記す学生もいる。
 こうした学生たちの内面は、“就活”がなければ、おそらく知りえなかったものだ。それ以上に私は、就活で自分自身に向き合わざるをえなくなる体験が、彼らを見違えるほど成長させていくことに瞠目させられるのである。
 本書には、このような“成長体験”が、凝縮された形で詰め込まれている。
 著者は、茨城の工業高校で、就職指導担当者として早期の内定率一〇〇パーセントを実現させつづけてきた、いまふうに言えば“カリスマ教員”である。その指導ぶりは、「苛烈」と言ってもいい。
「とにかく、今のお前じゃ無理だ。なぜ無理か言おうか。それは自己主張しかしていないからだ。希望企業がどうこう言う前に、お前が選ばれるようになってから来れば?」
 こんなふうに言われて、高校三年生たちは顔面蒼白になり、しばしば泣き出す。ここまで追い込んだら、まだ十代の生徒たちは立ち直れなくなってしまうのではないかと、他人事ながらはらはらさせられる。ところが、現実は逆で、生徒たちは目ざめたかのように姿勢を正し、就活に立ち向かっていく。その奥底にある気持ちを、
「生徒たちは、『就職したい』という希望と同時に、『強くなりたい』『自信をつけたい』と、絶対に感じている」
 と、著者は見抜いているのである。
 甘えるな。嘘をつくな。言い訳をするな。自分が企業を選ぶのではなく、人に選ばれる人間になれ。「崖っぷち」なんて言うな。崖っぷちは本来眺めがよいものだ。
 著者は熱っぽくこう繰り返す一方で、履歴書の漢字の書き方から企業見学時の対応法まで、それこそ痒いところへ手が届くような細かいノウハウをいくつも生徒たちに授け、しかもそれを反復練習で身につけさせる。いわば“企業秘密”が、本書には惜しげもなく公開されているのである。
 かくも指導を徹底するのは、高校生の就職方法が大学生のそれとはまったく異なり、志望できる企業が一人一社に限られているからだ。そのぶん、就活の厳しさもまた凝縮されざるをえないのである。
“ブラック企業”が流行語となり、“シューカツ”をテーマにした小説が直木賞を受賞する昨今、就活は実社会とのズレや偽善性で、奇妙な注目を集めている。その隠れた主題は「なぜ働くのか」にほかならないが、著者はいささかのけれんみもなく、「私は生徒のことが心配でならないし、『生きる力』を身につけてほしい」と祈る気持ちで本書をあらわした。そのひたむきな心情に、私は頭が下がる思いである。

 (のむら・すすむ ジャーナリスト・拓殖大学教授)

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