書評・エッセイ

2013年6月号掲載

読むだけで、悩みが消えていくような

――佐藤智恵『悩みの99%が一気に解決! 魔法のコンサル思考術』

斎藤広達

対象書籍名:『悩みの99%が一気に解決! 魔法のコンサル思考術』
対象著者:佐藤智恵
対象書籍ISBN:978-4-10-458902-9

 日本人には肝心なことが欠けている。
 野菜の切り方は知っている。肉の炒め方もわかる。市販のカレールーの微妙な違いも熟知している。
 でも、カレーの作り方を知らない。一番肝心なことが抜けている。料理に例えるとそんなところだ。
 材料集めや下ごしらえが不可欠なのは言うまでもない。各作業なしで料理は完成しないのだから。しかし、最重要なのはゴールの設定。「カレー完成」という着地点がなければ、すべての作業が徒労に終わる。
 レシピと呼ぶべきか、料理の作り方とでも言おうか。
 材料を揃え、あるべき順番で料理していく。明確なゴールがあり、すべての作業はそのゴールに向かう。ビジョンと、それに関わるプロセスで成り立つ作業だ。
 料理をする者にとってこんなことは当たり前だ。子供だって知っている。ところが、日々の問題に直面すると、人はなぜかこうした頭や体の動かし方ができなくなる。
 些末な要素にこだわり、つまらない感情が正確な判断を誤らせる。まるで、レシピなく目の前にある材料を切り刻み、目的のない煮炊きをするように……。
 少し遠回りした。本題に入ろう。
 料理の作り方を覚える感覚で、悩みを解決する頭の使い方をマスターする。『悩みの99%が一気に解決! 魔法のコンサル思考術』では、そのノウハウが惜しげもなく披露されている。
 著者である佐藤智恵が提唱する「魔法の見える化」は、「料理の作り方」に該当する頭の使い方で、多くの日本人に欠けているスキル。本来は学校かどこかで、若いうちに学んでおくべきだったロジカルな思考方法だ(実際、欧米やインドなどでは、こうした頭の使い方が幼少の頃より叩きこまれる)。
 佐藤智恵は米国コロンビア大学で経営修士を取得した後、プロフェッショナルなコンサルタントとして活躍してきた。また、日米の有名なメディア企業で実務を積んだことが、この本に、強烈なわかりやすさを与えている。
 コンサルティング業界では考える枠組みをフレームワークという難しい専門用語で呼ぶ。しかし佐藤智恵は、最初にこうした不要な垣根を取り払う。「横文字とかどうでもいい、とにかく『見える化』って言葉だけ覚えて!」といった具合に。
 2×2マトリックス、優先順位付け表、シナリオ分析など、聞きなれない魔法の見える化手法は、結婚相手候補のグルーピング、会社選び、離婚の検討といった日常直面する問題に使われる。見事に答えを導き出すさまは爽快ですらある。
 生きる悩みに対する「料理の仕方」を知っているだけで、ここまで痛快に問題を解決できるとは。悩みを反芻して時間を浪費するのがいかに無駄か実感させられるものだ。
 しかしながら、本書の魅力は頭の使い方を簡潔かつ簡単に紹介しているだけに留まらない。いや、それは全ページに横溢する魅力の、ほんの些細な一部かもしれない。
 この本は、とにかく優しいのだ。
 佐藤智恵は、つまらない悩みで日々嫌な思いをしている我々に、同じ目線で語りかけてくる。まるで自分の問題のように一緒に考えてくれる。上から目線でも下から目線でもなく、まったくの当事者となり対話してくるのだ。
 それがこの本が持つ魔力でもある。同じ物書きとして軽い嫉妬心を覚えるぐらい、著者の語り口が絶妙なのだ。
 この寄り添い感は、著者である佐藤智恵が、みずから苦労してコンサル的なロジカル思考を身につけたこと、そしてその思考パターンを、人が持つ微妙な悩みを解決できるレベルまで昇華させた証拠に他ならない。
 教科書的なロジカルシンキングではなく、生きていくために必要な「考える方法」。爽快な読後感に加え、理由なく優しい友人から強く背中を押されたような高揚感が味わえる。年齢や経験にかかわらず、この感覚を共有して欲しい。
 巷には安全保障や改憲問題などキナ臭い議論が溢れている。ゴールもないまま局地的な議論をするのは避けたいものだ。
 野菜の切り方だけ知っていても、カレーは作れない。

 (さいとう・こうたつ 企業再生コンサルタント)

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