書評

2013年9月号掲載

“ショートショートの神様”が遊んでる!

――星新一『つぎはぎプラネット』(新潮文庫)

新井素子

対象書籍名:『つぎはぎプラネット』(新潮文庫)
対象著者:星新一
対象書籍ISBN:978-4-10-109853-1

 星新一さんというのは、もの凄い作家なんだなって、改めて思う。
 生きていらっしゃった頃から、ショートショートの神様と呼ばれていたのに、1001編ショートショートをお書きになった処で、ぴたっとショートショートを書くのをやめた。神様とまで言われ、読者が山のようにいる現役作家が、御自身の代名詞でもある“ショートショート”を封印するということが、どんなに大変か。しかも、そののちも、ショートショートの新作がでなくとも、ひたすら読者に愛され続けた。星さんは、私の父と同い年なのだけれど、まず、父の世代に愛され、子供世代である私達に愛され、今では私の子供のような世代が星さんを愛し、そう遠くないうちに、私の孫世代が星さんを愛するだろう。星さんの没後、十数年たつというのに、未だに本屋さんには大抵星さんの本があるのだ。
 しかも、没後こんなにたってからの『つぎはぎプラネット』の出版だ。これは一部を除いて、単行本未収録作品集である。(その上、星さんの場合、没後に出た、単行本未収録作品集、これで二冊目!)
 このはやりすたりの激しい世の中で、これは一体どんな快挙なんだ! というか、異常現象のような気もする。
 そして、この作品集は、主に、「星新一は好きな作家だよ、私、結構読んでる」って人に、とてもお薦めの本なのである。
 というのは、星さんというのは、とてもスタイリッシュな方で、御自分の作品についても、かなり厳格なスタイルというものをお持ちになっていらした。
 この本は、単行本未収録作品集である。生前の星さんが、意図的に本にしなかったものを集めたものである。ということは、星さんのスタイルからはずれてしまったものもはいっているということで……。
 私も、原稿の段階で収録作品を読ませていただいたんだけれど、一星ファンとして、とっても楽しかった。
 え、星さんの楽屋落ち? ああ、これ、星さん、完全に遊んでるー。うわ、星さん、若いー。星さんの“若書き”を読むことができるとは……。
 星新一を最初に読むのなら、『ボッコちゃん』等、星さんが御自分でお作りになった本が一番なんだけれど、ある程度星作品を読み込んだ人には、これはもう、望外のプレゼント。スタイリッシュな星さんが隠そうとした素顔が透けて見えているものもある。(これは、星さんにしてみれば、意に染まないことなのかも知れない。けど、星さん自身が、かつてこれに類することをやっているしなー、この辺については、高井さんの解説を参照して下さい。)
 あ、解説って言えば。編者である高井信さんの解説も、必読。ここには、この本を編むにあたっての苦労が(えーと、実作業を知っている身にしてみれば、かなり薄めて)書かれているんだけれど、いや、もう、ほんっと、星さんくらい研究者をタイトルで悩ませる作家は、いないんじゃないかと思う。とにかく改題するし、同じタイトルの作品があったりするし……。(まあ、高井さんも解説で書いてらっしゃるけれど、ショートショートを千編以上も書いてしまえば、そういうことになるよね。星さんがおつけになるタイトルは、「鍵」とか「包囲」とか「発火点」とか、単純な単語であることが多く、それが千を越せば……だぶらない訳がないし、かぶっちゃっても気がつかないことだって、そりゃ、あるだろう。)
 また、単行本収録作品と、内容が似ていてもかなり改稿されたものは収録されているので(それを高井さんが丁寧に追ってくれているので)、高井さんの解説を片手に読み比べてみるのも一興だと思う。

 冒頭で私は、「星新一さんというのは、もの凄い作家なんだな」って書いた。「もの凄い作家だったんだな」、では、ない。
 没後十何年たっても、未だ、現役の“もの凄い作家”なんだと、改めて思う。

 (あらい・もとこ 作家)

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