書評
2013年11月号掲載
「ななつ星」の魅力をたっぷり積み込みました
――今尾恵介監修『日本鉄道旅行地図帳 九州沖縄 大改訂2014』
対象書籍名:『日本鉄道旅行地図帳 九州沖縄 大改訂2014』
対象著者:今尾恵介監修
対象書籍ISBN:978-4-10-790237-5
十月十五日、日本の鉄道史上でもっとも豪華な列車が走り始めました。九州内を巡る豪華クルーズトレイン「ななつ星in九州」です。三泊四日コースで長崎県以外の六県を巡り、一泊二日コースで残る長崎県を巡ることになります。「ななつ星」とはこの九州七県から発想されているそうです。
古代漆色に塗られた車体には、ローマ字で七つの県名が金文字で掲げられています。エンブレムには七つの★。機関車の番号はDF二〇〇‐七〇〇〇番、客車の形式は七七系で七両編成。専用バスのナンバープレートも「・・・7」。まさに「七」づくしです。
内装は豪華というよりは贅沢といった方がより正確な表現となるでしょう。これまでもJR九州の特急列車や観光列車のデザインを担ってきたデザイナー水戸岡鋭治氏の木へのこだわりが結実したような「作品」です。
材質へのこだわりや細部への神経の使い方は、ただ事ではありません。それはソフト面である食事やサービスにまで及んでいます。「『ななつ星in九州』車両案内」をひと目ご覧ください。贅沢なこだわりがぎっしり詰まっていることがよくわかります。
この前代未聞にして空前の列車の登場をとらえ、平成二十一年に発刊しました「日本鉄道旅行地図帳 12号九州沖縄」を全面改訂しました。「12号九州沖縄」はミリオンセラー日本鉄道旅行地図帳シリーズの国内最後の号です。この最後の号の発売からも四年の歳月が流れています。この間、九州新幹線博多〜鹿児島中央間の全線開業や新しい観光列車も走り始めました。「ななつ星」の運行開始は、九州が「鉄道新時代」に突入したことを予感させます。
新しい話題は「ななつ星」だけではありません。福岡県と熊本県にまたがる三井三池炭鉱の専用鉄道の廃線跡が、世界遺産暫定リストの構成資産のひとつに選ばれています。この鉄道は石炭輸送と従業員輸送の鉄道だったため、鉄道ファンでも知らない人がいるほど地味な鉄道です。その廃線跡(リストには「鉄道敷」という表現が使われています)が世界遺産に登録される可能性があるのです。廃線跡としては世界初かもしれません。この機会に謎の鉄道ともいえる三池炭鉱専用鉄道をその歴史を中心に多数の写真とともに紹介しています。
遺産といえば、九州にはほかにも注目すべき鉄道遺産があります。重要文化財に指定されている門司港駅は現在保存修理中で姿を見ることができません。もうひとつの重文、筑後川に架かる旧佐賀線筑後川昇開橋は、遊歩道として今も使用されています。
駅情報は「名駅舎」を見直し、十一駅中、四駅を落とし、三駅を新たに追加しました。前述しました門司港駅は改修に入り見ることができなくなり、鹿児島本線折尾駅駅舎は解体され、新しい駅に改築中です。さらに名駅舎だけでなく訪ねてみたい駅として、「九州モダニズム駅」(六駅)、「トーチカ駅」(六駅)、「西鉄小駅舎群」(六駅)などなどユニークな駅を杉﨑行恭さんの解説とともに掲載しました。ページのタイトルを「百駅停車in九州」としました。
また前シリーズにはなかった駅弁のページを新設しました。前シリーズでは「駅弁のページがない」と多くの読者からお叱りを受けました。今号では駅弁激戦地区でもある九州の数ある駅弁の中から「定番」といわれる駅弁を、研究家の上杉剛嗣さんに厳選していただきました。簡潔な解説つきですので、駅弁選びの指標にお使いください。
この地図帳には、鉄道地図、駅名一覧など鉄道旅行に必要な基本情報があり、また最新の話題も企画記事としてお楽しみいただけます。九州の旅行には、是非この新しい「大改訂2014」を手にお出かけください。
(たなか・ひろし 編集者)