書評・エッセイ

2013年11月号掲載

おやつで、脳のよろこびを深掘りする

――東大料理愛好会『アタマとカラダが冴える! 東大おやつ教室』

茂木健一郎

対象書籍名:『アタマとカラダが冴える! 東大おやつ教室』
対象著者:東大料理愛好会
対象書籍ISBN:978-4-10-334811-5

「東大」や「東大生」は世間的には一つの「ブランド」であり、この名を冠した書籍は、数多くある。なにしろ、「賢い」というイメージがあるから、「勉強の仕方」や「頭がよくなる」といったそのものずばりの指南本があるのは当然として、最近では「ディープな日本史」、「ディープな世界史」といった東大の入試問題からひもとく本、さらには、ひねりを加えて、東大生の中の「麻雀」や「ポーカー」の達人までが、本を出すに到っている。
 そんな中、東大生を中心とする東大料理愛好会による『東大おやつ教室』が刊行された。手にとって頁をめくってみると、料理本として、「普通に」よくできている! 特に、レシピの説明は簡潔にして要を得ており、さすが東大生、と感心することしきりである。
 もともと、料理には、身体への栄養素とは別に、頭へのご褒美というところがある。さまざまな工夫をこらした食べものをとることで、中脳から前頭葉に放出されるドーパミンなどを中心とする報酬系が活性化する。
 とりわけ、おやつはそうである。栄養の肝心な部分は、メインの食事でとるとすると、おやつで大切なのは、味わいや、楽しみ。すべての食べものの中でも、まさに「脳のために存在する」と言えるのが、おやつ。
 だからこそ、おやつを通して脳のコンディションを整えるというアプローチが出て来る。『東大おやつ教室』では、「脳力アップ」、「気分転換」、「快眠」、「体調管理」、そして「ダイエット」という視点から、東大料理愛好会が工夫をこらしたレシピが公開されている。
 東大と料理というと、一見関係がない、というか縁遠い。(何しろ、東大の入試問題に料理はない!)その両者が「補助線」で結びつくところに、「ドット」と「ドット」を結んだかのスティーヴ・ジョブズ氏のような、創造的醍醐味があるのではないか。
 東大生たちは、いわば、脳の報酬系の「プロ」。受験勉強の過程で、ドーパミンを使って脳を活性化したからこそ、彼らは東大に入った。いわば、脳の歓びを深掘りする「アスリート」である彼らが、おやつの世界で示した一つの「ソリューション」が『東大おやつ教室』である。

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 本書を手にとって、実際にレシピ通りにつくってみることで、読者の脳は大いに鍛えられるだろう。もともと、料理をすることは脳回路の「総合オリンピック」のような側面がある。視覚、嗅覚、触覚、味覚、時には聴覚までをも動員して素材の状態をつかむ。運動野や、運動前野、小脳を駆使した手指の細かい運動。段取りの計画、進行管理など、前頭葉の回路もフルに働く。本書を活用すれば、子どもたちは東大生の境地に近づき、大人ならばアンチエイジングの効果があること、請け合いである。
 実は、東大料理愛好会代表の宮崎拓真君に、テレビ番組の収録で会う機会があった。宮崎君は、実に朗らかだった。あのように、人生を心の底から楽しむことを知っている東大生が作った本なのだから、その効能は間違いないと太鼓判を押そう。

 (もぎ・けんいちろう 脳科学者)

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