書評

2013年12月号掲載

自立した女だからこそ、熟年交際を楽しめる?

――西原理恵子『いいとこ取り! 熟年交際のススメ』

勝間和代

対象書籍名:『いいとこ取り! 熟年交際のススメ』
対象著者:西原理恵子
対象書籍ISBN:978-4-10-137077-4

 サイバラさんとかっちゃんのノロケネタなのか、そんな話で1冊もつのかと、正直懐疑的になりながら読み始めたこの本、いや、ごめんなさい、ぶっとんでいた、おもしろかった。サイバラさんの漫画を読んでいるのと同じくらいの、痛快感、スピード感に満ちあふれていました。ごめんなさい、私がサイバラさん、かっちゃんをみくびっていました。
 週刊誌で二人がインタビューを受けていた記事をみたときに、「ああ、とうとうばらしちゃったんだーーー」とびっくり。なんせ、友人の間では公然の関係でしたから、今更、という感じでしたが、それでも、元ストーカーのかっちゃんとサイバラさんが幸せな関係にあるというのは、かなり新鮮です。
 なんといっても、本作を読むと、躁鬱の激しいかっちゃんと、それを支える激情家のサイバラさんという、理想の金持ちカップルと思われていた二人が、意外と「割れ鍋に綴じ蓋」だとわかる瞬間とか、へーー、へーー、へーー、です。
 この本で私がいちばん響いたのは「恋愛はフェアトレード」。すなわち、自分に見合った人が、相手に来ると言うことです。いやぁ、まったくその通り。私たちが熟さないと、私たちが理想とするような相手もやってこないわけです。すなわち、この本は恋愛本の形態をとりながら、実は、女性が「よりよいフェアトレード(公平な取引)」をする、よりよい男性と熟年交際をするためには、こういう生き方があるという女性の自立の提案本なのです。
 自己評価をどうやって高めるのか、「水筒」の役割(水筒についてはネタバレするので、詳しくは触れません、ぜひ、本作をお読みください。目から鱗が落ちます。なるほど、多くの中高年女性には水筒が足りていないのだ、と)、男と女の違い、潔く、わかりやすく、おもしろおかしく、まとめられています。サイバラさんは言葉を操るのが本当に上手‼
 熟年交際について、サイバラさんはそれぞれの人生においてさまざまな苦難や経験を乗り越えたからこそ出来る、相手と「いいとこ取り」だと表現します。相手のいやがることはしない、相手を支配しない、相手との適度な距離を保つ、うーーーむ、確かに、若年の頃には出来なかったことばかりです。
 繰り返しになりますが、この本を読むと、実はメインテーマは「熟年交際の勧め」ではなく「女性の自立の勧め」の意味合いの方が強いのではないかということに気づきます。恋愛のフェアトレードもそうですが、幸せな熟年交際を考えたときに、必要なのが、「経済的自立」なのです。
 経済的自立があれば、熟年交際で籍を入れることにもこだわらないし、相手の愛玩動物としての「美魔女」みたいな立場になる必要もないし、こちらが相手を金づる、相手がこちらをヘルパーさんと見なすこともないといいます。
 女性の美しさは、40歳になると「経済的価値ゼロ」と看破し、最近の美熟女ブームについても警鐘を鳴らします。いや、これ、周りの「若くてお金がある経営者」と話をしていると、ほんと、本音がよくわかります。彼らにとって、「20代の女性」以外は女性ではないと思っている節があるくらいです。私のようなおばさんには、つい本音が出てしまうのでしょうが、ほんとうにそうなんです。
 熟年恋愛をした相手は、最高の恋人であり、最高の親友になれる、すてきな言葉です。籍をいれるわけでもなく、子供を一緒に産んで育てるわけでもなく、単純に「一緒にいたいから」「笑いたいから」いるという関係です。
 こういった熟年恋愛についても、自分の親や子供に遠慮せずにすべきだと、「ベストマザー」表彰を受けたサイバラさんは断言します(この賞、2回離婚している私にもくれました、そういえば・笑)。子供たちは賢く、親に振り回されるよりは、そういう親と対峙して、対応する能力を学んでいきます。
 また、親の介護についても、あまりにも深入りしすぎると、難破船になり、一緒に撃沈すると断言します。子供との関わり、親との関わりも、すべて、「人生の選択肢」を女が自分で決める必要があると説きます。配偶者でも、なんでも、自分で選んできたことなのだから、自分が責任をとるべきだ、と。
 そして熟年交際のいちばんのポイントは「お互いに残された時間が短いのだから、その間にそれまでの人生で培った果実を収穫し合うこと」ということなのです。若い頃にさんざんやんちゃをして、痛いこともして、泣き叫んで、でも、そういういろいろなことがあって、今がある、その今をお互い、欠点も痛いところも認め合って、それで刈り取り合うということになります。
 最後に、とある、かなり特殊な、サイバラさん特製「かっちゃんお気に入り」のお酒が出てくるのですが、私ちょっとこれ、飲みたいと思ってしまいました(笑)。なんか、良くも悪くも、お二人の関係を表しているような気がしてならないのです。
 いや、ニタニタ笑いながら、1冊読み終わりました。読後感がいい本でした。ほんと、ごちそうさまです。○○の××ジュース割り、ぜひどこかで作ってみますね‼

 (かつま・かずよ 経済評論家)

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