書評・エッセイ

2013年12月号掲載

こんなに幸せな気持ちになれる

――小澤典代『一緒に暮らす布』

引田かおり

対象書籍名:『一緒に暮らす布』
対象著者:小澤典代
対象書籍ISBN:978-4-10-334991-4

 ものがあふれ、日々時間に追われる暮らしの中で、いったいどのくらい時間を遡れば再び人が自然と共生出来るのか見当もつかないと思っているのに、その自分が10年前にギャラリーを始めてしまった。
 今思うと、こんな時代だからこそいいものをつくりたい、生み出したいという作家の熱い情熱に触れて、大袈裟に言えば生きて行くという意味を一緒に考えたいと思った自分がいたことがよくわかる。
 いつかいつの日か「かご展」をやりたいと思っていた私の扉を軽やかに開けてくれたのが小澤典代さん(とんぼの本『日本のかご えらぶ・かう・つかう』の著者でもある)。
 彼女は「もの」や「ひと」をいろんな角度から読解し、心からの興味と関心を持って、その魅力をわかりやすく多くの人に解説出来る希有な人。かごへの熱い想いとともに、日本全国のかごの歴史や厳しい現状を伺いながら、一緒にかごの未来に想像をふくらませた展覧会は、本当に充実した内容となった。
 そして息つく間もなく次は庭の本、その次は布の本と軽くおっしゃる。仕事だからとキュートに微笑むその表情に、ものすごく大変なんだけど楽しいのって書いてある。
 そうなのだ。
 ものを生み出す、作り続けることは、本当は苦しくてとても大変な作業。でも大変たいへん、本当に大変なんですって言われると、そんなに大変なら止めればいいと思ってしまう。
 大変だけど好き、どうしようもなく大好きって言える人がいい。
 そしてそういう人が作ったものは間違いなくすごくいい。
 小澤さんの仕事は、私がわがままに好きか嫌いかで振り分けてしまう、その奥に潜む大切な歴史や語られない想いを根気強くすくいあげる。微かな吐息に込められた言葉にならない空気を書き留める。だからどの本も愛情たっぷりで読み応えがあるのだ。
 今回の布の本も、伝統というバトンをしっかり受け取り、それを次へとつなごうという人から今の暮らしのスタイルに添ったエッセンスを布に織り込んで新しい布を生みだそうとする人の作品まで、幅広いバリエーションでそれはそれは楽しい内容。
 展覧会をいくつかやってきた私にも、たくさんの発見があった。
 野良着の防寒のためだったこぎん刺し。ただ地を厚くするということに飽き足らず、なんと美しい図案を考えたことだろう。寒さが厳しい北国の女たちがひと針ひと針ゆきつ戻りつ試行錯誤した姿を想像するだけで、胸が熱くなってくる。
 人はやはり美しいものに、気持ちがこもったものに、心が震えるものなのだ。
「オールドマンズテーラー」は実家の古い織機でリネンを織れるようになるまで3年かかったという。もう少しもう少しこうしてみようと諦めずにやり続けてくれたことで、アンティークと見間違う素敵なリネンが生まれたのだ。
 高速の機械で織られる物と、さわり心地がぜんぜん違う。それはゆっくり織られることで、その時間の空気も織り込まれるからなのだとか。
 時代を超え、国境を超えて出会えた布たちにも感謝。
 本をめくりながら記憶に刻まれたインテリアやコーディネートのヒントは、いつもなにかしら自分の新しいチャレンジに繋がっている。
 かわいい花柄を着ることに躊躇しても、小さな布でなにかしら始めてみればいい。
 どこかの誰かが心を込めて作ったものが、めぐり巡って自分の暮らしの中にやってくる。そんなことを楽しんだり喜んだりすることが本当に幸せ。
 しかし残念なことに、何をかくそう……私は針仕事が大の苦手。夫の背広のボタンをつけようとしたらポケットが塞がれ、子どもの体操着のすそ上げも悲惨な有様だった。
 時々「あなた、地球ははじめてね」と言われて本当に驚いてしまう私だけれど、たしかに宇宙の「彼ら」はいつもツルツルピカピカの全身タイツ姿のイメージ。
 きっと進化し過ぎてフリフリやヒラヒラを手放してしまったのだろう。
 今度自分の「星」に帰ることがあったらこの本をおみやげにして、布でこんなに幸せな気持ちになれるってこと、もう一度思い出してみない? って提案しようと思っている。

  (ひきた・かおり 「ギャラリーフェブ」主宰)

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