書評・エッセイ

2014年1月号掲載

「それは何かの勘違いだと思います」

――二階堂正宏『恩讐の彼方に』

二階堂正宏

対象書籍名:『恩讐の彼方に』
対象著者:二階堂正宏
対象書籍ISBN:978-4-10-301554-3

――めったに表に出ないナンセンス漫画家・二階堂正宏さんが、独占インタビューに応じてくれました。今回の新刊には、いままでとはちがうタイプのストーリー漫画が三本、収録されています。まず表題作の「恩讐の彼方に」ですが、まるでタッチが劇画ですね。
「こんな漫画、描くんじゃなかったと後悔しています。私にはアシスタントもいないし、スクリーントーンを買うカネもないので、すべての線を自分の手で描かなければならないのです。私は普段、ひとコマ漫画は筆で描いています。こんなに大量の細かい線を、ペンでガリガリ描いたのは生まれて初めてで、腱鞘炎になるかと思いました。もうイヤです。ただし『ムーさん』などに比べると、インクの量が圧倒的に多いので、ズシリとした重みが感じられるでしょう」

 

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二階堂正宏『恩讐の彼方に』より
(実際には伏字はありません)

 

――特に感じません。それよりも、昔、菊池寛による似たような話を、教科書で読んだような気がするんですが。
「それは何かの勘違いだと思います」
――二本目の「きりぎりす」は、これはどう読んでも太宰治ですね。
「それも何かの勘違いだと思います」
――じゃあ、三本目の「七人の百姓」ってのは、どうなんです。
「これは百ページ超の、二階堂史上、最長の超大作です。こんなバカな話を百ページ以上かけて描いた漫画家は、おそらく世界で私が最初で最後でしょう。それを刊行する出版社も出版社だと、正直、私も驚いています。とにかくもう二度と、こんなくだらない漫画は、この世に登場しないと思います」
――少しは本の宣伝になるようなことを言ってくださいよ。
「作品がすべてです。特に付け加えることはありません」
――本書は、青少年健全育成条例に抵触するのではないかと、ヒヤヒヤしてるんですが。
「以前、某小説誌に連載していた『鬼平生半可帳』は、あまりの下品さに打ち切りになりました。『竜馬がイク~ッ』も題名を見ただけで、各方面から本気なのかと呆れられました。政治時評漫画など、いったい何本ボツになったことでしょう。私の漫画は、常に、そういう扱いを受けてきました。毒を食らわば皿までといいます。イクところまで、行こうじゃありませんか」
――それは勘弁してください。さて、このロング・インタビューも、そろそろ終わりが近づいてきました。このような漫画を、どういう人たちに読んでもらいたいとお考えですか。
「世の中の建前に腹が立っている方々に読んでいただきたいです。借りた五千万円を大急ぎで返して平然としている、完全にブロックされているといいながらダダ漏れ――どうもこの世はウソが多いと感じている大人のための漫画です。私は宮城県の出身ですが、ここ数年、東北人は、苦しい中を耐え忍んで頑張っています。彼らにもぜひ読んでいただきたい。私も、もうすぐ六六歳になりますが、まだまだパロディやナンセンス一筋で、権威や建前を、嗤って、からかって、呪ってやるつもりです。そんな漫画家が一人くらいいたって、いいでしょう」

 (にかいどう・まさひろ 漫画家)

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