書評
2014年2月号掲載
文章がうまくなる人、ならない人
清水義範『心を操る文章術』
対象書籍名:『心を操る文章術』
対象著者:清水義範
対象書籍ISBN:978-4-10-610555-5
カルチャースクールで文章教室を三年ほど続けている。私が課題を出し、それにそったエッセイやフィクションを受講生が書く。その作品を私が全員の前で読みあげ、感想を言う、というやり方をしている。この、他人の書いた作品も聞いて知れるという方式が、みなにとって刺激となり、書いた本人も驚くような新奇なものが出てくるという教室になっている。五十代の生徒が中心の教室なのだが、それからでも人間は結構成長するのである。なかなか指導のしがいがある。
しかし、文章の上達の度合いには個人差があり、めきめきうまくなる人もいるが、なかなか変ってこないなあという人もいる。うまくなる人と、なかなかうまくならない人がいるわけだ。
私の見るところでは、文章がうまくなる人というのは、何らかの狙いの筋を持って書く人だ。
たとえば、最後に必ずオチがあって、そういう結末になるとは思わなかったなと、読み手を驚かせよう、と狙って書いている人は、漠然と書いている人よりも上達が早い。狙って書いているので技が身につきやすいのだ。
いろんな技法に積極的に挑戦しようとする人も上達する。前回は主人公の一人称語りで書いたから、今回は三人称でハードボイルドに書こう、などと様々挑戦する人は上達も早いということだ。
要するに、何らかの狙いをもって書くほうが、文章はうまくなるのだ。
ここで笑わせよう、とか、ここでは泣かせようとか、ここでゾッとさせよう、などの狙いを持って文章を書くのは、上達のために有効なのである。
そういう受講生たちを見てきて、私は今度新潮新書の一冊となる『心を操る文章術』を、着想したのだ。
その本で私が文章上達の手段としてお勧めしているのは、××させる文章、というものを意識してみると、面白いしうまくなりますよ、ということだ。この××のところにはいろいろな言葉が入り、次の五つになっている。
「笑わせる文章」「泣かせる文章」「怖がらせる文章」「怒らせる文章」「和ませる文章」
そういう、読者の感情をある方向にゆさぶる文章はどうしたら書けるのだろう、ということを考察してみた。たとえば、「笑わせる文章」というのは書くのがむずかしいのだが、古今の名作をいくつも例として示しながら、要するに人間はどんな時に笑うのか、を分析している。
同様に、「泣かせたい」ならどんな技法を使うといいのか、「怖がらせたい」なら、どう書けば読んでいてゾクゾクするのか、ということを考えて、テクニックを伝授しているのである。
文章というものは、最終的には人柄と教養が書くものではある。しかし、たくらみを持って狙って書けば、ぼんやり書くよりは上達するのだ。
そのための手引きのような本ができた。
(しみず・よしのり 作家)