インタビュー
2014年3月号掲載
『いつまでも男と女 老いかたレッスン』刊行記念 インタビュー
上り坂も、下り坂も
対象書籍名:『いつまでも男と女 老いかたレッスン』
対象著者:渡辺淳一
対象書籍ISBN:978-4-10-324819-4
――二〇一二年十月に刊行された『老いかたレッスン』は、定年後、老後の新鮮な生き方を提案する本として、大きな反響を呼びました。
渡辺 自分の老いを隠さずに、率直に書いたからでしょう。また、そういう本が少ないからね。六十五歳以上の高齢者は日本の人口の四分の一を占めるのに、その本音やニーズが聞こえてこない。ぼくなりに高齢者の声を代弁するつもりで書きました。
――新刊の『いつまでも男と女 老いかたレッスン』には、さらに具体的な提言が詰まっています。いわば、ご自身の体験に基づく実践編ですね。
渡辺 ぼくも満八十歳になりました。日本人男性の平均寿命を少しだけ超えたわけで、この年齢になってみて初めてわかることもあります。
――たとえば?
渡辺 去年の夏、自宅の階段から転げ落ちて、怪我をしてしまった。その一カ月くらい前に、「階段のある家は作らないようにしよう」と原稿に書いていたんだけど。それは階段の上り下りが億劫になって外出しなくなるからという意味で、まさか自分が階段を踏み外すとは思ってもいなかった。油断していたんだね。年齢(とし)をとると、それまで大丈夫と思っていたことが、大丈夫ではなくなるんです。
――本にも書かれている「退行性変化」でしょうか。それを自覚することが大切なのですね。
渡辺 でも、年齢をとって初めて気づくのは、わるいことばかりじゃない。ぼくは救急車も断って病院にも行かなかったけど、数日後に傷口を見たら、かさぶたが出来て治ってきているんです。細胞が懸命に働いて、傷を治してくれている。そういう力が、今も自分の体にある。それに気づいて感動できるのも、年齢をとったおかげです。
――タイトルにもあるように、今回は「男と女」が最大のテーマになっています。
渡辺 ちょうど『愛ふたたび』という小説を書いていた時期だったので、それも関係あるかもしれない。これはおそらく日本で初めてインポテンツを主題にした小説で、自分自身、インポテンツになったから書けたんだ。
――やはり体験から生まれるのですね。でも、そうなると男女の関係も変わってくるのではないですか。
渡辺 高齢者だけでなく、夫婦間のセックスレスなんてことも、よく言われるでしょう。それはセックスを狭い枠で考えすぎているから。セックスというのは、男性が挿入して射精するという、それだけの狭いものではない。詳しくは本で読んでもらいたいけど。
――男と女の違いも、鮮やかにお書きになっていますが、それはどういうところで感じられるのでしょうか。
渡辺 誰でもそうだと思うけど、男女の違いを最初に意識したのは小学生の時。だって、運動会での走り方やスピードも違うし、遊びも全然違うからね。生物学的にも精神力でも、男と女は根本的に違いますが、高齢者になって一番問題なのは、男性は孤独に陥りがちなことです。
――そこは意識して変えていかなければならないのですね。男に最後のチャンスあり、とも書かれています。
渡辺 何歳になっても人間は変われるし、変わらないと面白くない。そして、変わるには恋愛が一番です。恋愛が人を変えるし、若返らせてくれる。いくつであっても、恋愛も結婚もできる。結婚は独身でないとまずいけどね。
――上り坂も下り坂も、両方見届けてこそ人生、というのも、印象深い言葉です。
渡辺 両方体験してこそ人生だからね。下り坂の変化も受け入れなくてはいけないし、自分で変化を作り出していってほしいですね。ぼくも次は、高齢者同士の燃えるような恋愛を小説で書いてみようかな。
(わたなべ・じゅんいち 作家)