書評・エッセイ

2014年5月号掲載

「若者」のうちに言っておきたいこと

古市憲寿『だから日本はズレている』

古市憲寿

対象書籍名:『だから日本はズレている』
対象著者:古市憲寿
対象書籍ISBN:978-4-10-610566-1

「若者としての意見を聞かせて下さい」「最近の若い世代はこの問題についてどう考えているのでしょうか」。そんな質問をこの二年半ほどでざっと数百回はされたと思う。
 きっかけは二○一一年秋に出版した『絶望の国の幸福な若者たち』だ。就職難や世代間格差の被害者と言われる若者たちが、実は幸せに暮らしていることを指摘した本である。著者である僕はその時26歳。若者が若者について語るのが珍しかったのだろう。メディアや政府の会議などで、僕は何度も「若者」としての意見を求められた。
 そういう場では、普段だったら出会うことができない人と話すことができる。楽屋裏でインフォーマルな会話を交わすこともできる。社会学者にとっては格好のフィールドワークの場だ。
 昨年夏に消費増税を決めるための会議に、「若者」として官邸に呼ばれた時のことである。僕がおそらく最年少で、80歳近い参加者もいた。
 僕にしては珍しく、「日本は若年層向けの社会保障が貧弱な国。それが少子化の一因ともなっている。現役世代のための増税というなら数字でもそれを示して欲しい」という比較的まともなことを言った。その意見を真面目に聞いてくれた人もいたが、会議が終わった後、とある偉いおじさんにこんなことを言われた。
「最近の若い子は性欲も少ないからね。もっと君たちに頑張ってもらわないと。がはは」。どうやら、この方の中では「少子化」イコール「性欲」の問題としか思えないらしい。
 確かに「性欲」は「少子化」と関係があるかも知れない。しかしいくら「性欲」が旺盛でも、十分な数の保育施設、子育てしながらでも働きやすい職場環境などが整備されないと、なかなか若者たちは子どもをつくろうとしないだろう。もはや昔のような地域社会は崩壊しているのだ。そもそも、初体験年齢などを見ると、若者の性欲が減退しているとは言えない。
 抜本的な制度改革をせずに、何となくの気分と精神論で物事を解決しようとする。これは少子化問題に限らず、広く日本の大人たちに見られる特徴だ。「強いリーダー」待望論、「ネット」や「ソーシャル」への過剰な期待、掛け声と税金の無駄遣いだけの「クール・ジャパン」……。偉い人の考えは、往々にしてピントがズレていたり、大切な何かが欠けていたりする。
 新潮新書から出版された『だから日本はズレている』は、この国の大人たちの迷走について観察、分析した本だ。優秀な人材と、巨額の資本が投下されたはずのプロジェクトはなぜ失敗してしまうのか。既得権益の部外者である「若者」視点で考えてみた。もちろん題名に反して僕のほうがズレている可能性もある。一体、ズレているのは誰なのか。若者か、大人か、読者か、僕か。反発しながらでも手にとって頂けたら嬉しい。

 (ふるいち・のりとし 社会学者)

最新の書評・エッセイ

ページの先頭へ