書評

2014年7月号掲載

弱いことこそが成功の条件

稲垣栄洋『弱者の戦略』

稲垣栄洋

対象書籍名:『弱者の戦略』
対象著者:稲垣栄洋
対象書籍ISBN:978-4-10-603752-8

 自然界は弱肉強食である。
 強い者が生き残り、弱い者は滅びてゆく。それが厳しい自然界の掟である。
 それなのに、私たちの身の回りを見渡してみると、どう見ても強そうではない生き物たちが、自然界でその生を謳歌している。弱そうに見える彼らが、どうやってこの自然界を生き抜いているのだろうか。これが本書の重要なテーマである。
 私は学生時代に雑草の生き方に魅せられ、大学で雑草学を専攻した。ところが、いざ雑草学を勉強してみて驚いた。
「雑草はたくましい」「雑草魂で強く生きる」が、雑草に抱いていたイメージだったのだが、その雑草が、じつは「弱い存在」だと言うのだ。そこら中に、はびこって私たちを悩ませている雑草が、「弱い植物」というのは、いったいどういうことなのだろうか。
 雑草は、他の植物との競争に弱い植物である。まともに勝負しても、とても勝つことはできない。そこで、強い植物が生えることのできないような困難な場所を選んでいるのである。
「逆境は敵ではない。味方である」
 私はこの言葉こそが、雑草の生き方を端的に表していると思う。
 雑草はさまざまな知恵と工夫を発達させて、逆境の地に生きている。しかし、彼らは逆境に耐えているわけではない。逆境を乗り越え、さらには逆境を活用しているのである。あるものは踏まれることによって種子を散布し、あるものは草刈りをされることによって、かえってはびこっていく。彼らにとっては、逆境は成功のためになくてはならないものなのである。
 雑草は弱い。だからこそさまざまな戦略で成功を遂げている。この生き方が雑草を強く見せているのだ。
 この発見は、けっして強くない私自身をずいぶんと勇気づけてくれた。そして、逆境を味方につける雑草の戦略は、私が社会を生きる上でも大いに役に立ったのである。
 弱い存在であるのは雑草ばかりではない。私たちのまわりには、さまざまな弱き生き物たちが、強く生きている。自然界はナンバー1しか生きられないという鉄則がある。ミミズやオケラやゾウリムシのように、けっして強そうに見えない生き物たちも、じつはナンバー1の部分を持つ勝者なのだ。
 弱い存在である彼らの生きる知恵には、目を見張る。彼らを見ていると、弱いことこそが成功の条件ではないかと思えるほどだ。本当の強者とは、自らの弱さを知る者なのかも知れない。
 私たち人間も、強い立場で生きることのできる者はほんの一握りである。本書に登場する弱者と言われる彼らの生き方には、少なからずヒントがあるはずだ。

 (いながき・ひでひろ 静岡大学大学院教授)

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