書評・エッセイ

2014年7月号掲載

泣くがいやさに笑ってござる

山村基毅『ルポ 介護独身』

山村基毅

対象書籍名:『ルポ 介護独身』
対象著者:山村基毅
対象書籍ISBN:978-4-10-610574-6

 北海道に住む、明治生まれの祖母が八十四歳で亡くなったのは十七年前のことだった。
 青森の貧しい漁村に生まれた祖母は、文盲であった。かろうじてカタカナが読める程度の祖母を、私は軽んじ、心のどこかで蔑んでいた。だから、葬儀の折、隣家のじいさんから「ばあちゃん、お前の書いた本を嬉しそうに見せびらかしてたぞ」と聞いたときは、思わず涙してしまった。
 親と離れて暮らしていては孝行などできやしない。何とか「孝行もどき」ができないか。そんな思いからホームヘルパー3級を取った(家庭介護向けの資格で五年前に廃止)。当時、住んでいた東京都新宿区で有償ボランティアにも登録し、仕事の合間、何人かのお年寄りの世話をした。
 しかし、二年後に転居すると、そんな殊勝な思いはすっかり忘れ去ってしまったのだから情けない。介護とは無縁の暮らしに戻ってしまった。
 女性ばかりの編集プロダクション「オフィス朔」の深井敦子さんが「独身者による介護というテーマで取材をしてみない?」と声をかけてきたのは、そんな私の来歴を知ってのことだったかどうか。
 初めはハウツー色の強い企画だったと思う。ただ、話を聞くうちに、私はかつて抱いた悔いを思い返していた。介護する者の心の襞に染み込んでいる苛立ちや無念を聞き出せれば、私なりのルポルタージュが可能かもしれない。深井さんにそう告げ、引き受けることにした。「朔」と共に企画を進めていた「ヒルダ」の中田紀一さんが加わり、そこから独り身で介護をしている人たちを探す歩みがはじまったのである。
 十数人の方々に会い、じっくりと話を聞くことができた。「独身」といっても、性別、年齢、職業(の有無)、本当にいろいろである。
 しかし、みな一様に明るかった。「泣くがいやさに笑ってござる」ということだろうか。ままならない親の体調、未来への展望のなさ、ときに不眠症に襲われ、自ら体調を崩す者もいる。ならば「笑うしかない」と思い定めたかのようであった。
 彼や彼女との対話から本書『ルポ 介護独身』は生まれたのだが、その歩みの最中、田舎に住む私の父が死に、本書に登場する二人の方の親が亡くなった。「生」とは流れ行く川のようなものだと、つくづく感じ入ってしまった。
 おまけに……
 今年の五月、父が死んでから一人暮らしとなった私の母が、脳梗塞で倒れてしまう。集中治療室に入れられ、そばに住む兄が付き添った。「厄払いでもしなくちゃな」、兄はそう笑っていた。
 数日前の夜半のことだ。携帯電話が震えた。母の容体が変わったか、とすぐさま電話に出た。
「びょういんの……ごはん……まずくてねえ」
 呂律の怪しい言葉。母だった。一般病室に移ったという。私に向け、ぼやくこと、ぼやくこと。
「贅沢いうな!」
 そう怒鳴った私の顔は、まさに「泣くがいやさに笑って」いたはずである。

 (やまむら・もとき ルポライター)

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