書評
2014年8月号掲載
変わるもの、変わらないもの
――畠中恵『すえずえ』
対象書籍名:『すえずえ』
対象著者:畠中恵
対象書籍ISBN:978-4-10-146134-2
ちなみに、私の職業は書店員なのですが、仕事でもプライベートでも、自分が自信をもってオススメできるものだけを、「いいですよ!」と言ってきました。
そんな私が大好きなのが、最新作『すえずえ』で通算十三作目となる、「しゃばけ」シリーズです。
私を「しゃばけ」に巡り合わせてくれたのは、売り場の先輩でした。もともとファンタジー小説は好きだったのですが、時代小説をあまり読めていなかった私に先輩が、「しゃばけ」のシリーズ第二弾『ぬしさまへ』をすすめてくれたんです。さっそく読んでみたら、ファンタジーと時代物が融合されていて、好みにドンピシャ! 気が付くと全作コンプリートしていました。本との出会いは、一期一会ですよね。ですから、この文章が「しゃばけ」シリーズを手に取るきっかけになれば幸いです。
「『しゃばけ』と言ったら?」と聞かれたら、「とにかくキャラクター!」と答えてしまうほど、キャラクターが驚異的に魅力的です。主人公である若だんなはとっても病弱なのに、自分が倒れることを分かっていても、自ら苦難に立ち向かっていきます。そして人情で事件を解決し、新しいご縁までも作っていく。その姿を見ると、私もがんばらなければと思います。やっぱりぼっちゃんが一番好きです。というか、もはや尊敬しています。
そんな若だんなを守っているのが、兄(にい)や達をはじめとする妖(あやかし)達です。彼らはちょっとヌケているけど、皆、若だんなを大事にしていて、溺愛しています。そもそもは若だんなの祖母であるおぎんの指示で一緒に暮らすようになったのに、自分の意思で彼を大事にしている姿はかっこいいですね。若だんなもその想いに応えていて、まさに相思相愛。本当に素敵な家族です。
「しゃばけ」は長いシリーズなのですが、常に最新作が待ち遠しいんです。それは、変わっていく部分もあるけど、大切なところは変わらないからだと思います。最新作では、なんと若だんなに婚約者が決まるというびっくりな展開があるのですが、相変わらず神々や妖にふりまわされては寝込み、しかし決して諦めません。また、兄や達もおおきな決断を迫られますが、彼らは今あるものを大切にするために悩み、新しい未来を作り出します。驚きもあり、けれど大事なものは変わらないというこのスタンスは、読者を飽きさせません。
お馴染みの妖達の新しい面を発見できるのも、新作の楽しみです。今回、貧乏神・金次が荒れるんです。貧乏神、あれほどの力を持っているとは……恐ろしいです。あとは、若だんなの母、おたえが大活躍します。ヴェールに包まれていたおたえの生活振りが明かされました。ずっと気になる存在だったので、嬉しかったです。独り立ちした兄の松之助や最近あまり登場しない鈴彦姫についても気になってます。今回、行方不明になり、日頃なかなか優遇されていないような気もする父である藤兵衛視点のお話なんかも読んでみたいですね。畠中先生、宜しくお願いします!
最新作で一番共感したのは、広徳寺の高僧・寛朝のお弟子さんである秋英が、師匠の不在に不安になる姿でした。私自身、新しい部署に異動したばかりで右も左も分からず悪戦苦闘しているので、自分でがんばらなければいけないけれど、先導もしてもらいたいという葛藤がよく伝わってきました。
柴田ゆうさんが描くイラストのかわいさも「しゃばけ」の魅力です。キャラクターとイラストがぴたりと合っていて、皆、命が吹き込まれたように生き生きとしています。初お目見えのキャラクターでも一目で分かるって、神業ですよね。柴田さんのイラストも含めて、まるごと「しゃばけ」ワールドにはまった私は、グッズを買いあさり、読者プレゼントにも応募しています。数年前、畠中先生にサイン会をしていただいた時には、グッズの売り子に志願したくらいです。
まずは、どの作品でもいいので一冊読んでみてください。どの作品からでも楽しめます。そして、いいなと思ったらぜひ全巻読んでみてください。もしいま、あなたに元気がなかったら、生きる勇気をもらえること間違いナシです!(談)
(やまぐち・なみこ 三省堂書店勤務)