書評
2014年9月号掲載
小説家・長江俊和に訊く
――長江俊和『出版禁止』
対象書籍名:『出版禁止』
対象著者:長江俊和
対象書籍ISBN:978-4-10-120741-4
――まずは、『出版禁止』出版、おめでとうございます。
ありがとうございます。
――『出版禁止』は、いつ頃から構想され、どのくらい執筆に時間がかかりましたか?
三年前に、小説新潮の編集長から、「掲載禁止」というタイトルの小説を書いてみてはどうか? というオファーを頂きました。私も以前から、『放送禁止』の手法を小説の世界に応用した、フェイク・ルポルタージュみたいなものを書いてみたいと考えていましたので、早速取り組むことにしました。その間、映像の仕事も並行してやっておりましたので、執筆には三年かかりました。タイトルは途中で「刊行禁止」に変わり、最終的に『出版禁止』で落ち着きました。
――今回、なぜ「心中」をテーマにしようと思ったのですか?
最初は「掲載禁止」というタイトルがあっただけで、どういう小説にするか、アイデアも何もない状態でした。そんな時、偶然CS放送で『西陣心中』という映画を見ました。
――一九七七年公開、高林陽一監督のATG映画ですね。
はい。高林監督の『本陣殺人事件』が、横溝映画ベスト3に入るくらい大好きな作品だったので、『西陣心中』は見たいと思っていました。映画を見て、耽美的な映像と主演の島村佳江さんの美しさにやられてしまい、この世界を小説にできないものか、と思ったんです。同時期に、連城三紀彦さんの傑作小説『戻り川心中』を読み、「心中」という世界に大きく心が揺り動かされました。それが、心中でフェイク・ルポルタージュを書いてみようと考えた動機です。
――映像作家なのに、なぜ小説を書こうと思ったんでしたっけ?
もともと小説を読むのが好きで、学生時代には、横溝正史、安部公房、筒井康隆、村上春樹を貪るように読みました。
――筒井康隆さんと言えば、私が監督させて頂いた『富豪刑事』のドラマを思い出しますね。あのドラマには原作者である筒井先生も出演され、打ち上げでは先生に、ゆっくりお話しを伺う機会にも恵まれました。
そうでした。あの時、サインして頂いた『虚航船団』初版本は私の宝物です。もともと私は、SFや幻想文学に興味があり、映像作品もそういった類のものが多いのですが、『放送禁止』を手がけて、ミステリーを作る面白さに目覚めました。
――お陰様で『放送禁止』シリーズは、数多くの方に支持を得ることができました。最初始めた時は、深夜の単発ドラマ企画で、心置きなく楽しんで作っていました。ゴールデンの番組ではできない仕掛けや演出を実験したり、自主映画やクラブ活動の乗りで制作していたんです。「こんな夜遅く、どうせ誰も見ていないから好きなことやるぞ!!」って感覚で。
そうしたら、ネットでじわじわ反響が来たんですよね。『放送禁止』は、ミステリー小説の叙述トリックを映像に応用したテレビドラマでした。そこで今度は、本当のミステリー小説に挑戦することになったんです。
――短編小説を書かれたんですよね。小説新潮に掲載された「杜の囚人」と「原罪SHOW」ですね。
「原罪SHOW」は、日本推理作家協会の年刊アンソロジー『ザ・ベストミステリーズ2012』にも選出され、大きな励みとなりました。これからも、小説を書き続けて行けたら、この上ない幸せです。
――小説の執筆に時間をとられて、映像の仕事がおろそかになると困るんですけど。
そんなことはありませんよ、ちゃんと映画も作っています。
――どんな映画ですか?
放送禁止の新作で、『放送禁止 洗脳~邪悪なる鉄のイメージ~』、十月十一日公開です。今回のテーマは、「洗脳」です。
――映画の方、楽しみにしています。
小説も、次回作期待しています。頑張って下さい……。あれ、なんか逆になってません!?
――確かに、どっちがどっちか、わからなくなってきました。
では、この辺でお開きに。
(ながえ・としかず 映像作家・小説家)