書評

2014年9月号掲載

国境で生きる人々を通して見た最前線リポート

山田吉彦『国境の人びと 再考・島国日本の肖像』

足立倫行

対象書籍名:『国境の人びと 再考・島国日本の肖像』
対象著者:山田吉彦
対象書籍ISBN:978-4-10-603754-2

 著者は東海大学海洋研究所において、日本の国境や隣国との関係を研究している。
 北は択捉島から南は沖ノ鳥島、東は小笠原諸島、西は与那国まで、日本の領域の境目となる離島を数多く訪れ、そのたびに「この国は国境で生きる人々により守られてきた」と実感した。本書は、そんな人々の生活を通して見た、現在の国境問題のリポートである。
 当然、懸案の竹島や尖閣諸島(どちらも上陸できないので関連の島根県隠岐の島町や沖縄県石垣市)などが登場するが、意外な場所が「国境」として取り上げられている。
 例えば、津軽海峡だ。狭いところで幅約二〇キロ、長さ約一三〇キロの海上交通の要衝であり、マグロやイカの好漁場でもある。この海域で近年外国のコンテナ船や貨物船の航行が急増している。地元の漁師は「危なくて漁もできねェ」と言い、青函フェリーの船長も、「大きな事故が起きる前に外航船を管理できる体制を」と訴える。
 というのも、津軽海峡では海峡中央部を公海と定め、国家主権が及ばないからだ。ロシアの北極海航路の開設などで船舶通過数は増加の一途だが、公海のままでは分離通航帯の設置も速度規制もできない。著者は、日本漁船の生活の場を守るためにも、また安全保障上も、公海を廃止し領海幅を一二海里に拡大、海域管理を徹底すべきだとする。
 あるいは、沖縄本島から東方へ約三六〇キロ離れた南大東島と北大東島。一般には、より南方に沖ノ鳥島があるので国境とは思われにくいが、広大な排他的経済水域の基点なので間違いなく「国境」だ。この二島が今、存亡の瀬戸際にある。
 台風や塩害に抗して栽培できる作物はサトウキビしかなく、二千人足らずの人口の八五パーセントがサトウキビ関連で生計を立てている。ところが、TPP(環太平洋連携協定)による農産物輸入自由化の脅威。TPP導入で関税が撤廃されれば、日本のサトウキビ生産は消滅する。島民が言うように、「島には人が住まなくなる」のだ。
「国境」の島が無人になればどうなるか?
 日本領の竹島は隠岐島の漁民が漁業基地として使っていたが、定住していなかったため、戦後の混乱期(一九五二年)に韓国に武力で奪われ、現在も占有されたままだ。日本領の尖閣諸島は、最盛時約二五〇人が居住しカツオ節工場で働いていたが、戦争の影響で一九四〇年に無人島化。しかし近海に海底油田の存在が確認されるや、一九七一年に台湾・中国が突然領有権を主張し始めた。
 南北の大東島が無人島になれば、その広大な排他的経済水域を含め「他国に占領されてしまってもおかしくない」のである。
 日本は世界で六番目に広い海域を所有する国だが、近隣諸国との間に海域と資源を巡り対立が生じている。「国境」の人々と共にどう対処すべきか? 著者の提言はどれも具体的だ。

 (あだち・のりゆき ノンフィクション作家)

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