書評
2014年10月号掲載
主人公は100%僕――金がないから結婚しよう!
――嶽本野ばら『傲慢な婚活』
対象書籍名:『傲慢な婚活』
対象著者:嶽本野ばら
対象書籍ISBN:978-4-10-466005-6
よく小説の感想が知りたくネットで自分の名前を検索――いわゆるエゴサーチしてみると、こいつは私小説しか書けないなどと書かれていて憤慨します。全部、読んでない癖に……。
でもまぁ、小説家が主人公である作品は多く、僕を想起させることは理解出来るので、仕方がない。『ロリヰタ。』という作品は、ファッションに詳しい小説家が小学生には観えないけど実は小学生だったモデルの女の子と恋に堕ちるお話。しかしこれを実話だと、僕の熱烈な読者の中でも思っている人が多いことを最近知り、驚きました。そりゃ、僕はここ暫く、AKBが大好き! 二次元・命、とロリコン発言ばかししていますが、されど、小学生には手を出しませぬ。高校生くらいからでないと、恋愛対象としては観られない。頑張っても中学生まで(って、それは立派なロリコンですといわれれば、グーの音も出ない、嶽本野ばら・今年四六歳・未だ独身)。
何故に私小説っぽいものを書くのかといいますと、僕のルーツは日本の近代文学。近代文学って私小説が多いではないですか。だからして近代文学を気取る為にその体裁を用いることが多いだけのこと。想像力がないから自分のことしか書けないと思われるのは心外、書こうと思えば『人間失格』や『金閣寺』くらいのものなら、寝ながらでも書けます。
と、身の程知らずなことをいい、自己肯定を繰り返しながら、実はね……と本音を洩らす。僕はライターから小説家になったもので、小説にしろエッセイにしろ、書き始める為に異常な程に資料を集めるのですよ。取材も徹底的にやる。『下妻物語』も現地に行き、徹底的にリサーチ、ヤンキーがバイクで走るルートが知りたくずっと夜中、道端で暴走族に取材しようと待ち続けました。しかし族は見付からなかったので、土浦の繁華街に行き、キャバクラか何かの客引きの人に「元ヤンのコ、いる?」と訊き、店に入り地図を広げ、族が走るルートを教えて貰った。『シシリエンヌ』ではパリにある普通の人は知らないけど高級なランジェリーを扱うお店のことが書きたい余り、自腹でパリに渡りお店を見つけ出してきました。そんなことをやっているから、稼いでも何時(いつ)もお金がなく、とうとうキャッシングに手をつけ、払えなくなり、カードを三つ飛ばして、借金生活に喘(あえ)ぐことに……。高級マンションからボロアパートに引っ越すを余儀なくされた。なれど、アパートを借りるのも大変で、もう親は年金暮らしだから保証人として立てられない。そういう人には保証人代わりになってくれる会社があるのですが、カードを飛ばしてるからブラックリストに載っているようで、更にいえば作家なんて定収入も信用もない仕事をしているもので審査がまるで通らない。
その時、思いました。嗚呼、しっかりした嫁がいれば僕がこんな状態でも、棲む処くらい嫁が借りてくれるのにと――。結婚、しておけばよかった。否、今からでもいい、誰でもいい、僕と結婚してくれる生活力のある女子を探そうと――。
そんな経験を踏まえて書いたのが『傲慢な婚活』です。――って、やっぱし自分のことしか書けないんじゃんとツッコむなかれ。先程、僕は徹底的に取材をすると申したでしょう。だから今回は、自分で自分を取材したってことなのさ。
主人公は小説家でもあるミュージシャン。ノイズ音楽をやっている。まさに僕そのものなのですが、金がねーから自分を取材するしかなかったんだよ! 自分を取材するなら金は掛からぬ。だから自分で自分のことを調査しました。何故、今まで結婚出来なかったのか、とか、意識の下にある無意識まで降り、己を解剖してみた。そしてその調査内容を書き記しましたら、急に気持ちがラクになった。そうか、僕は恋愛至上主義者だと勘違いしてたけれども、芸術至上主義者、ずっと芸術に恋しちゃってるからどんな素敵な女性が現れようと結婚に至れなかったのだと。なので『傲慢な婚活』の主人公は100%僕です。これだけ自分のことを書いたことは今までない。そんな作品なので、興味ないなら読まなくていいです。あ、しかしそれでもフィクションよ。この主人公より全然、僕はまともです。主人公は大麻をやりながら演奏をしますが、僕はもう、やってませんから!
そこのところは、誤解なきようよろしくお願いいたします。
(たけもと・のばら 作家)