書評・エッセイ

2014年10月号掲載

信を置くことができるか

――本多孝好『魔術師の視線』

三浦天紗子

対象書籍名:『魔術師の視線』
対象著者:本多孝好
対象書籍ISBN:978-4-10-471603-6

 超能力者たちのバトルアクション『ストレイヤーズ・クロニクル』シリーズや、『ALONE TOGETHER』の他者の波長にシンクロできる主人公・柳瀬のように、特別な力を持つがゆえに、普通とは違う運命を生きることを余儀なくされる登場人物を、本多孝好は好んで書く。
 本書『魔術師の視線』も、そういった特殊能力が狂言回しにはなっているのだが、むしろ強く問うてくるのは人と人との信頼。“信を置く”ことの意義がテーマになっている。
 ヒロインの楠瀬薫は、三十七歳のビデオジャーナリストだ。かつては大手の週刊誌記者としてスクープもモノにしたこともあるのだが、いまはこれといったテーマも見つけられないまま鬱屈した日々を送っている。
 そんな薫のもとに、家出同然の体で諏訪礼が訪ねてくる。礼は十一歳のときに超能力の持ち主として一世を風靡。しかし、薫が超能力のトリックを暴いたことが発端で、両親は離婚。引き取ってくれた母ともうまくいかず、友人もいないような悲痛な境遇へと追いやられた少女だった。
 それでなくても、自分の過去の仕事がもたらした罪悪感に苛まれていた薫。ささやかな罪滅ぼしをするつもりで、何者かに狙われていると怯える彼女を匿い、守る立場を引き受けることにする。
 だが、薫は礼に、ただ同情したわけではなかった。三年前に、礼がメディアで見せた超能力は、トリックだった。それゆえ、礼の身の安全に配慮しながら一緒に行動してはいるが、手放しで彼女を信用できない気持ちが頭をもたげる。そのぐらぐらする心情は、読者にも伝播し、読者もまた誰を信じればいいのかと揺さぶられる。
 薫がまず頼ったのは、週刊誌記者時代の上司で、いまは探偵業で生計を立てる佐藤友紀だった。礼の引き受け手として礼の父親を探してほしいという薫の依頼を受けて、友紀は人探しを引き受ける。
 細い糸をたぐるうち、礼をめぐるもう一人の重要人物で、礼の騒動の片棒を担いでいた超能力サイトの運営者・宮城大悟の影が見え隠れし始める。ところが、情報をつかみかけていた友紀が事務所近くの路上で不慮の死を遂げてしまうのだ。その死をめぐり、薫はますます疑惑を深くする。実際、礼と行動を共にするようになってから、薫の周囲で不可解な出来事が次々と起こり始めていたからだ。
 薫がしばしば直面するのは、相手に“信を置くことができるか”という問題だ。
 礼にまとわりつくストーカーは本当に存在するのか。不倫スキャンダルを力を合わせてすっぱ抜き、盟友だと思っていた友紀は、本当はどんな顔を持っていたのか。超能力の有無やメディア批判など宮城の言い分には一家言あるが、どこまで信じていいものなのか。
 また、同じビデオジャーナリストの仲間たちなどいま現在薫を支えてくれている同胞たちや、実力以上の何かを持つ国会議員の寺内隆宏、美貌の政治評論家・八木葉子といった、かつて薫と否応なく関わりを持ってしまった男女も、みな意味深な言葉をささやき、薫の心をかき乱す。
 薫や礼の身に及んでいる危険。礼や宮城の受けた超能力バッシングとその波紋。不思議な連鎖を感じるいくつもの変死事件。複雑に絡み合うその真相が見えてくるラストまで、加速度を増しつつ疾走するエンターテインメントであることは間違いない。
 しかも、本多印とも言える読み応えもちゃんと用意されている。これまで著者が連綿と書いてきた、過去を、人を、痛みを引き受ける“受容の物語”としても本書は一級だ。
 薫を始め、礼や友紀、宮城、八木葉子に至るまで、みな何らかの形で苦悩し、その傷を癒やしきれずにいる。そんな彼女、彼らが引きつけ合うのは、自分なりに運命を生き直そうとする精一杯のあがきでもあるのだろう。その一つの答えが、薫が礼にしたように、相手を無条件に受け入れること。その孤独な魂の共鳴に、読者もまた一筋の光を見るはずだ。

 (みうら・あさこ ライター、ブックカウンセラー)

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