書評・エッセイ

2014年10月号掲載

分析力光る、タカラヅカ星への案内書

――雨宮まみ・文/はるな檸檬・漫画『タカラヅカ・ハンドブック』

中井美穂

対象書籍名:『タカラヅカ・ハンドブック』
対象著者:雨宮まみ・文/はるな檸檬・漫画
対象書籍ISBN:978-4-10-336491-7

 私が宝塚にハマったのは、天海祐希(あまみゆうき)さんに出会ったことがきっかけでした。「ハードボイルド エッグ」という現代劇で天海さんはアレックスという役を演じていらっしゃったのですが、そのあまりの格好良さに、穴に落ちるように一瞬で好きになってしまって……それから約二十年、宝塚という、唯一無二の存在に心を奪われ続けています。
『タカラヅカ・ハンドブック』は、雨宮まみさんが文章を書き、宝塚ファンを題材にした漫画『ZUCCA×ZUCA』でブレイクしたはるな檸檬さんが、それに合う一コマ漫画を描くという構成です。読んでいると、恋に落ちてから一気に熱狂していったあの頃の自分が鮮明に思い出されました。というのは、雨宮さんは二〇一二年に初めて観劇されたそうで、ファンになった最初の一歩の勢いが文章から伝わり、非常にエネルギッシュな印象を受けました。トップスターさんの掛け声や仕草を真似する姿など、「そうそう、私もこんなふうにドキドキして、テンションあがってた!」と、世代は違えど、心の動きや行動に身に覚えのあることが多々あって。実は私も、ヅカメイクでマリー・アントワネットの衣装を着て写真を撮ったことがあります……。でも雨宮さんは、そんなふうに夢中になっている自分を抑え、あくまで冷静に、なぜ自分が心奪われたのかを「分析」したり、宝塚の魅力を「説明」したりします。決して自己満足に陥らない、その目の付け所が面白いので、宝塚に興味のない人も楽しんで読める、質の高いエッセイ集でもあると言えるのです。
 ファンでない人が宝塚に抱く様々な違和感――例えば、過剰なメイクや衣装、現実離れした芸名にはどんな意味があるのか、といった疑問が丁寧に分析されていくのですが、長く宝塚を観ている私も考えたことのない目線での分析が光り、文章にされて初めて気がつくこともたくさんありました。
「宝塚の舞台はいつも『永遠』ではない」という章では、ファンを飽きさせないための宝塚独特のシステムが、いかによく考えられているかが分かりやすく説明されています。「卒業システム」について言えば、AKB48が登場する遥か以前から宝塚では行われてきました。ほとんどのタカラジェンヌはいずれ宝塚から「卒業」していくので、ファンは常に「今しかない」と焦り、煽られるように劇場に通い、いずれやってくる好きなスターの卒業に涙します。しかし、そこで熱が冷めると思いきや、次から次へと気になるスターは出てくるもので……。檸檬さんの漫画もファンの気持ちを非常によく表してくれています。自分の中に、「終わりにしたくない」という未練がましい気持ちが生まれるからかもしれませんが、常に新陳代謝が行われているからこそ、宝塚歌劇団が100年続いてきたのだと私も思います。それと、私は「つり橋効果」と同じだと考えているのですが、格好良いと感じる興奮や美しいものへの憧れだけでなく、自分の好きなスターがトップになれるか否かの心配や、いつ卒業してしまうかの不安まで、悲喜こもごも、あらゆる種類のドキドキが味わえることも、ファンを魅了してやまない大きな一つの要因でしょう。

img_201410_16_1.jpg 他にも、「本物の男がいないのに、なぜ夢中になれるの?」という章や、「宝塚は他の舞台と何が違うの?」という章などでは、宝塚歌劇団から御礼を言われてもいいのではと思うほど、的を射た分析がなされていて、とても興味深かったです。
 私にとって宝塚とは、見上げると輝いている星のようなもので、観劇に行くことは、タカラヅカ星へ宇宙旅行するようなことなんです。つまり、壮大なファンタジーの世界の中で、その一時は現実を忘れさせ、まばゆい夢を見させてくれるということなのですが、私たちに魔法をかけるために、タカラジェンヌは舞台をおり、役を離れてもなお、その芸名のタカラジェンヌを演じ続けていて……恐るべきサービス精神! 上手い下手、美醜といったことよりも、努力していない人は一人もいない、そんな彼女たちの生き様に、観客は心を動かされるのではないでしょうか。
 これほど素晴らしい世界を観に行かなければ損だよ、まあまずはこの本を読んでみてよと、自信をもって周りにアピールできる案内書を得た、そんな気持ちになりました。

 (なかい・みほ アナウンサー)

最新の書評・エッセイ

ページの先頭へ