書評・エッセイ

2014年11月号掲載

犬が、子どもに教えてくれること

――ジョンソン祥子『いつもとなりに ~Maru in Michigan~』

対象書籍名:『いつもとなりに ~Maru in Michigan~』
対象著者:ジョンソン祥子
対象書籍ISBN:978-4-10-334113-0

 2013年、私は朝ドラの撮影で住まいを大阪に移していた。期間は10ヶ月。一緒に暮らしていたヤマトと言う名前の柴犬は東京に置いていかざるを得なかった。その期間には犬の訓練学校にも入っていた。「お互い、成長出来るように頑張ろうね」なんて言いつつ、ヤマトにとってはよくわからず色々な場所を転々とさせてしまった。ヤマトは人見知りを全くせず、誰にでも全力で尻尾を振って甘えられる性格ではあるけれど、寂しい思いや、心細い思いもさせてしまったと思う。
 大阪で毎日がめまぐるしく過ぎてゆくなかで、私はことあるごとにヤマトの事を想った。無言でおでこをぐりぐりと押し付けてきて甘えてくる姿。嬉しすぎてぐるぐる走り回ってしまう姿。夜明けごろからじっと様子を窺っていて、「おはよう」と言うと待ってました!とばかりに駆け寄ってきたり、あるいは我慢できずに起こしにきたり。空き時間に携帯電話に入ったヤマトの写真を見返す。まるで我が子を残して単身赴任してきた親のような気分だった。
 そんな折、一冊の本が手元に届いた。「犬が大好きな杏さんに」といただいたのは、柴犬と赤ちゃんが、アメリカのミシガン州で暮らす様を切り取った写真集『ことばはいらない』だった。赤ちゃん一茶君と柴犬のマル、どちらも言葉を介さず、雄弁に愛を語っている。東京に住んでいるとなかなか足を運ぶことも出来ない一面の原っぱや海岸を、気持ち良さそうに自分の世界にしている。すやすやと寝ていたり、どうやって撮ったのだろう!?という表情ばかりだったが、それもそのはず、お母様が彼らを撮影しているのだ。共に暮らす家族にしか切り取れないいとおしい瞬間が詰まった写真集に、すぐに夢中になった。……こう書くと「他の柴犬で、犬成分を補完するなんて!」なんて思われてしまうかもしれないが、勿論我が子ヤマトを忘れた訳ではない。だが、いつしか私は、こんな暮らしがしてみたいなぁと思うようになった。

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マルと並んで歩けるようになった一茶くん(本書より)。

 思いっきり走り回れる自然の中で、四季を感じて犬や家族と暮らす。残念ながら日本における犬の規制は年々厳しくなる一方だが、どうにかして、未来にはもっと犬にも人にも優しい環境にしていけないだろうかとも思う。
 写真集はスタジオにも持って行った。過酷な撮影環境は大体の人がなかなか家に帰れず、犬を含む家族にはなかなか会えない状況なので、皆が目を細めてページをめくった。
 ほどなくして第二弾『ぼくのともだち』が刊行された。時系列に沿って成長した姿……ではなく、時は少し遡って、一茶君が産まれて家に迎え入れられ、一歳になるまで。柴犬マルは見た事も無い赤ん坊という生き物に戸惑い、そして焼きもちを妬いてみたり赤ちゃん返りしてみたり。その中でだんだんと築かれていく、付かず離れずの関係が描かれていた。

 犬の時間は人間に比べてずっと短いし、何より赤ちゃんは姿をとどめずにどんどんと大きくなっていく。その二つの時間が交差する瞬間は奇跡に等しい。

 新しく刊行された『いつもとなりに』では、ぐんと大きくなった一茶君が登場。柴犬マルの見た目はそんなに変わらないのが、一茶君の成長の早さを物語る。イギリスには「子どもが生まれたら犬を飼いなさい」ということわざがある。子どもに犬は寄り添い、そして多くの教えを授けてくれるのだ。マルはこれからどんなことを一茶君に教えるのだろう。ずっと見守りたくなる。もちろん、そこに“ことばはいらない”。

 (あん 女優)

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