書評
2015年1月号掲載
共感したら貴女もしくじり女
――南綾子『婚活1000本ノック』
対象書籍名:『婚活1000本ノック』
対象著者:南綾子
対象書籍ISBN:978-4-10-102582-7
モノが売れない時代だと言われてるけど、売れてるモノは売れてるし買ってる人は買ってる。社会や政治のせいじゃないし客のせいでもない。売れないからと言って安易に質を下げて安く売ってみたり、付加価値を無理矢理つけて高く売っても売れないの。珍しい物を乱立させてニッチな層を狙うのもありだけど、すぐに飽きられてしまったりライバルや類似品も増えてくる。そんな時代だからこそ顧客やニーズのマーケティングをしっかりとして商品の良さ、品質管理、アフターケアに万全を期すのはもちろん、愛される店であり販売員でなければならない。
それは婚活も同じ。売れないにはそれなりの理由がある。
どこに出しても恥ずかしくない典型的なしくじり女。
それがこのお話の主人公であり著者の南綾子さん。愛される努力なんかしたくない。理想も下げられない。モテる男に振り回されたいし、そういう男と簡単に寝てしまう。そして男の言葉を鵜呑みにし、重く面倒な女に豹変してしまう。自分の価値を高く見積もりすぎて市場価値を分かっていない。自分を分析出来ない……いや……分析は出来ているけど行動出来ない。結婚したいと言うけれど男を本気で探しているようには見えない。まるで女有吉かのように男にあだ名をつけるのも得意。可愛げがない。加点方式に見れない。自虐的で後ろ向き。男に勝とうとするし男のプライドを平気でへし折る。下ネタも平気。ノリ突っ込みが完璧の面白い女。しかも突っ込んだら男が2度と立ち上がれないような鋭さを持つ突っ込み力。面倒になると死のうかなとかすぐに言い出す卑屈さ。アドバイスを素直に受け入れられない。生理的に無理とかフィーリングが大事とか言い訳が多い。愛と恋愛と性欲とイケメンと理想と現実の折り合いがつかないくせにトキメキだけは求めていて結婚にも超焦ってる――ざっと挙げただけでもこれだけしくじっていたら男性から愛される理由がないと思うのよ。
ロクな男がいないとか嘆いている場合じゃない。環境や生い立ちのせいにしている場合じゃない。南さんってなんだかんだ言って思考回路が少女マンガなの。「学校で1番の人気者の彼が普通の私に恋をした!」めいたありもしない運命的な展開を夢見る少女(いい歳なのに)が実は南さんなの。普通の男になんて興味も示さず、女慣れした脈なしのチャラ男が大好き。相手にされるはずなんかないと分かっていてもメールを送りつけたり、この機会を逃したら……と淡い期待を抱きすぎて会ったばかりの男と「付き合う」妄想をしてセックスだけの関係に自滅する。現実は分かってるはずなのに心のどこかで王子様を信じてる。そんな女が婚活を1000本ノックのごとく続けていると根性とか忍耐とか我慢とか妥協とかスポ根化して本来の目的を見失ってしまう。
彼氏が出来ない、結婚出来ない人って自分とも婚活とも相手とも向き合ってないのかも。自分が変わらなきゃ何も始まらないのよ。手に入らないものに執着して、大事なことを見失ってはだめ。自分を大切にできない恋なんて、恋だと錯覚しているだけ。脈のない男に「前向き」になるのではなく、自分を幸せにすることに「前向き」にならないとだめなのよ。それは南さん自身が婚活を通じて感じた『人間関係』につながると思う。完璧な人間なんていないから、とことん頑張るしかないのよね。だって自分を幸せに出来るのは自分だもん。
最後にあたしが1つ気になった事。
南さんが好きな映画を聞かれた時、婚活用に用意しているのが「ニュー・シネマ・パラダイス」だという恐ろしさ。
アウト!
ヨーロッパ映画なんてダメ。ハリウッドの有名な恋愛映画で十分です。「私は映画好き」と言っておきながら「タイタニック」や「アナ雪」なんてベタな回答をするのがいいのよ。男が思う普通の女なんてソフトクリームが大好き! ディズニー大好き! がテッパンですからその枠から外れないことね。恋愛本に出てくるような女はつまらないとか言っても男は結局、可愛げのある普通の女が好きなんですよ。
「おまえなんかに言われたくないよ、クソオカマ・オブ・ザ・イヤー!」ってきっと南さんに言われると思いますが。
はい。あたしも山田とかマスクマンとかそういう男にときめきたいです。
南さんに共感しまくってしまったあたしもしくじってます。
でも頑張ろうって思えました。しくじり女に幸あれと。
(ごまぶっこ 作家・コラムニスト)