書評

2015年7月号掲載

「やり方」から「あり方」へ 無形の資産の築き方

――高野登『リッツ・カールトンで実践した 働き方が変わる「心の筋トレ」』

青木仁志

対象書籍名:『リッツ・カールトンで実践した 働き方が変わる「心の筋トレ」』
対象著者:高野登
対象書籍ISBN:978-4-10-339371-9

「心を鍛える」とは、巷でよく聞く言葉であるが、本書のキーワードでもある「心と感性の筋トレ」という表現は言いえて妙である。
「筋トレ」とわかりやすく表現しているが、それは「習慣」のことに他ならないだろう。習慣とは「思考習慣」と「行動習慣」の二つに分けられる。私も長年、人材教育に携わってきた中で確信を持って言えるのは、いわゆる“成功者”と呼ばれる人は、皆共通してそれぞれの目的・目標にあった良い思考習慣・行動習慣を身につけているという点である。こうした習慣が、健全な人間関係を構築し、折れない心を育み、そして物心ともに豊かな人生を歩むために不可欠な要素なのである。
 世間に流通するビジネス書は、「いかに稼ぐか」といった目的のない「やり方」に終始したもので溢れているが、本書はそれらと一線を画している。本書は、人材教育のプロの観点から見ても、成功者に共通する「マインド」・「ナレッジ」・「スキル」の三つが、見事に一冊の本の中に凝縮され、網羅されている。そこには、やり方ではない、“あり方”を示唆し、有形の資産だけではなく“無形の資産”をいかにして形成するかが述べられているのだ。
 しかも、それらが単なる机上の理論ではなく、具体的にどうアクションをとればいいのかまで落とし込まれているのは、著者である高野氏の幅広いキャリアから来ていることは言うまでもない。
 氏は、あの「ザ・リッツ・カールトン・ホテル日本支社」にて支社長も務められ、「実」を積み上げてこられた、言わずと知れたサービスの分野における最高峰の教育者・実践者である。
 ここで本書からにじみ出ている氏のお人柄についてぜひとも述べておきたい。氏との出逢いは10年前。第一印象からして、柔和で、温かく、気配り心配りの行き届いた方であり、同時に人間の本質というものや、物事の原理・原則の探求心が非常にお強い方であると感じた。
 まさに「何事でも人々からしてほしいとのぞむことは、人々にもそのようにせよ」という“黄金律”に生きている人物であると言っても過言ではないだろう。
 本書で述べられていることで、何一つ成功の原理・原則から外れたものはない。
 全て、ビジネスマンとして、いや一人の人間として生きていくうえで大切なことばかりであり、少なくとも私が読んできた書物において、ビジネスマンに向けた指南書としては最高のものと言ってよい。氏が特に対象とされている学生、新社会人以外の方々にも、「生き方」の指針として必読の一冊であろう。
 最後に、これまで私が長年の経営者教育を通して一貫して伝えていることでもあり、また、氏と志を同じくする者としての意味も込め、本書のあとがきから一部引用し、私の書評を結ぶこととしよう。

『会社に利益をもたらしてくれるのは、社員のみなさんの必死のがんばりです。だから、会社の目的は幸せを実現すること。幸せな社員は、お客様や社会との繋がりを大事にしてくれる。その結果として会社は強くなり、利益を上げることができる。』

 本書を手に取った方々が、物心両面の豊かな人生を歩まれることを祈念したい。

 (あおき・さとし アチーブメント株式会社代表取締役社長)

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