書評・エッセイ

2015年12月号掲載

カリスマヘッドハンターが教えるリーダーの心構え

――古田英明『ヘッドハンターだけが知っている プロ経営者の仕事術』

冨山和彦

対象書籍名:『ヘッドハンターだけが知っている プロ経営者の仕事術』
対象著者:古田英明
対象書籍ISBN:978-4-10-476902-5

 私は、二〇〇三年に産業再生機構に参画し、企業の倒産や再生の現場を数多く見てきました。
 危機に瀕した企業の中身を調べて、再生のための処方箋を書いてみると、財務リストラだけでは到底間に合わず、ほとんどのケースで経営陣の入れ替えが必要でした。だから、企業を再生する上で、新たな経営を誰に任せるかということが非常に重要な要素となります。
 産業再生機構ではカネボウやダイエーなどの大企業から中小企業、地方の名門企業など四十一社の再生に取り組みました。それぞれの企業の規模やタイプに合わせた新たな経営者を探さなければならないのですが、その際に、たいへんお世話になったのが本書の執筆者である縄文アソシエイツ社長の古田英明さんでした。
 古田さんは、エグゼクティブを対象としたヘッドハンターとしては、日本の草分け的な存在だといえるでしょう。本書はその古田さんが、プロ経営者を題材にしてリーダー論を述べたものです。
 特に興味深いのは、ご自身の経験をベースに、プロ経営者の候補となるエグゼクティブをどのようにスカウトするのかが詳細に描かれていることです。古田さんによれば、一人の人材を見極めるのに五年くらいの時間をかけるということですが、この件を読んで私としても大いに納得するものがありました。
 私自身、企業再生を託す経営者候補の面接をしていて、人間を見抜く難しさを痛感していたからです。たとえその都度何時間話をしようと、いくらでも演技することができます。しかし、五年間その人の人間的な成長やそれに伴う発言の変化などをトレースしていけば、能力のみならず人間性もかなり掘り下げることができるはずです。そういう候補者を数百人もウオッチングしているところに、ヘッドハンティングのプロのノウハウがあるのだと思います。
 本書ではまた「人材敗戦」という言葉で、リーダーとして経営を担える人材が圧倒的に不足している日本の現状に警鐘を鳴らしていますが、私もこうした危機感を共有しています。
 かつて右肩上がりの経済が続き、企業を取り巻く環境が連続的にしか変化しなかった時代には、トラブルが起こってもほとんどが想定内のものだったので、問題解決のための調整をすることがリーダーに求められる役割でした。
 しかし、バブル経済が崩壊して以降、低成長時代に入る一方で、グローバル化やデジタル革命の進展に伴い、不連続な変化が常態となった現在、ビジネスや生産の現場では日々、まったく想定外の問題が噴出し続けています。こうした局面でリーダーに求められるのは決断力ですが、多くの日本企業では依然として調整型のエリートが経営を担っています。このミスマッチこそが、日本経済の長期的な低迷の大きな原因だと言えるでしょう。
 しかも、バブル崩壊から二十年以上もたっているのに、混沌の時代に対応できるリーダーの育成を怠ってきました。それが現在の深刻な人材不足を招いたことは明かです。
 そもそも決断力のある経営者というのは中間管理職の延長線上に存在するのではなく、早い段階から経営者として育成されるものです。ただし、ピカピカのエリートコースを歩ませればいいというわけではありません。むしろそういうところからは強いリーダーは生まれてこない。三十代半ばくらいから、経営状態がボロボロの子会社やビジネス環境の劣悪な新興国市場などを渡り歩いて経営者としてのトレーニングを積み、挫折と失敗を乗り越えて生き残るような人材でなければ、これからの会社経営は担えません。
 さらに、そういう厳しいプロセスを経てトップになれば、ワークライフバランスなどはない。仕事に追われて社長が一番大変だと部下から同情されるくらいの存在にならなければ、経営はうまくいかないでしょう。こうしたリーダーの心構えが「三角形を逆さにして頂点が底辺となって全体を支える」というユニークな表現で分かりやすく解説されているのも、本書の読み所の一つだといえるでしょう。

 (とやま・かずひこ 株式会社 経営共創基盤 代表取締役 CEO)

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