対談・鼎談
2016年1月号掲載
内田春菊『おやこレシピ』刊行記念公開対談
子どもと一緒に、なにつくる?
内田春菊 × 伊藤まさこ
離乳食からお弁当、そして仕事しながらの子育て。
おふたりの食卓と暮らしぶりを語っていただきました。
対象書籍名:『おやこレシピ』
対象著者:内田春菊
対象書籍ISBN:978-4-10-416702-9
内田 伊藤さんと最初にお目にかかったのは一〇年ぐらい前でしたっけ。手仕事のプロに教えを乞う『ワイルドハンズ・ティーチャーズ』という本で、子ども服の先生として出ていただいたのがきっかけです。
伊藤 私の子ども服の本『こはるのふく』を読んでくださっていて。そして子どもたちが同じ小学校だったんですよね。内田さんの二番目のお嬢さんが娘の一学年下で。その後、私の『あの人の食器棚』という本の中で、おうちにお邪魔したんです。ひとのお家の台所を見せてもらって、さらに料理もするという......ちょっとずうずうしい企画なんですけれど(笑)、内田さんのおうちはおおらかで、本当に居心地がよくて。お子さんたちと一緒に焼きそばパンを作りました。
内田 五味太郎さんの食器を使っていただいたんですよね。それと、じゃがいものポタージュ。すごくおいしかった。
発想が自由
伊藤 新刊の『おやこレシピ』、とてもおもしろかったです! 娘とも話してたんですけれども、「これは春菊さんじゃないとできないね〜」って。たとえばケーキを作るときに「泡立て器がなくてもお箸で混ぜちゃえばいい」とか、発想が自由。私だったら、道具を揃えるところから始めてしまうと思う。
内田 泡立て器がないお家って意外とあるんですよ〜。
伊藤 あと、勉強になったこともありました。スパイスを混ぜて保管すると熟成が進むとか。
内田 それぞれ保管するのが面倒なだけなんですけどね。それで「あっクローブがいる」みたいなときに瓶をほじくり返して使ったり(笑)。
伊藤 あははは! あと、お茶を自分で作ってらっしゃるのもびっくりしました。果物の種や皮を干してらしたり、本当にまめですよね。
内田 まめ! そんな言葉をおっしゃっていただけるとは......だって今日のイベント、私は「伊藤さんとごはんについて話せるなんて、私も偉くなったもんだ」と鼻高々で来たんです。伊藤さんのレシピは、「何かと何かをするだけ」というのが素敵だと思う。りんごにシナモンスティックを挿して焼くだけ、とか。それでちゃんと、おいしいんです。
伊藤 私は逆に、粉をきちんと秤で計って......というようなお菓子作りは最近すっかりやらなくなりました。それぞれ大事なポイントが違うんですね。
お弁当の話
伊藤 娘が高校生になってから、お弁当を作ってあげられる日もそんなに長くないのかも......と気づいたんです。内田さんもお弁当、作られてますよね。
内田 前は学食に頼ったりしていたんですが、娘①が大学生になり、あまりにも大学の周りに何もないので復活し、だんだん一つ作るのも三つ作るのも一緒かなとなりまして。それにしても、伊藤さんのお弁当は本当においしそう。
伊藤 いえいえ、うちのお弁当は茶色いですよ〜。でも娘がそれでいいと言っているからいいかなと。見た目よりもおいしいことのほうが大事らしく、たとえばプチトマトなんかも「必要ならいいけど色合いのためだけだったらいらない」なんて言われて。
内田 世代は違いますけれど、私の元彼は、ペヤングをお弁当にされたことがあるって言ってました。もうお湯も入れて最後まで作ったのを、そのまま包んであったそうです。その後、ホームルームで問題になって「ペヤングを持ってこないように」と決まったという(笑)。
伊藤 えー! おいしかったのかな?
内田 いや、もうブヨブヨですって。
伊藤 すごい。そんなことしてみたいけどできないもの(笑)。
内田 伊藤さんのところのお弁当箱は曲げわっぱですよね。
伊藤 小さい頃から使っているものです。一時期、中学生ぐらいのとき、キャラクターのついたお弁当箱を使ったこともありました。私自身はちょっとイヤだったんですけれども......でも半年ぐらいで、やっぱり元のがいいと言い出して。ピンクのプラスチックより木の器のほうがおいしく見えると自分で気づいたようで、強制しなくてよかったと思います。
内田 私んちは保温弁当箱を使ってます。最近はごついのだけじゃなく、女子っぽいデザインのもあって。でもあれ、半永久的に使えるものかと思っていたら、そうじゃないんですよ! 数日前娘①が「かあちゃん〜、実は少し前からスープが保温できなくなってるのよ〜」と言ってきたと思ったら、娘②も「だいぶ前からごはんが冷たいけどまあいいかって食べてた」と言い出して買い換えたの。もっと早く言ってほしかった......。
伊藤 ふふふ。あとこの本に載っていた信号卵! あれもびっくりしました。
内田 うずら卵を食紅などの色素に浸して、緑赤黄の三色に染めるんです。幼稚園に通っていた息子が喜んでました。
ごはん、時間、仕事
伊藤 内田さんって、漫画家で、歌も歌い、女優さんでもいらっしゃる。どういうことですか?(笑) 気持ちが切り替わるんですか? それぞれ表現の仕方が違うのが面白いなあと思って。
内田 いえ、どれもパートタイマーですよ。何種類もの仕事の切り替えは、今もそんなに上手な方ではないと思います。
伊藤 お忙しい中でも、絶対自然に台所に立ってますよね、春菊さんは。
内田 いや、漫画の締切の時なんかは、家にいても「漫画で忙しいから、何か作って」って子どもに言って、作ってもらってます。最近はネットスーパーを使い始めたので、買い物もそれで済ませちゃう。
伊藤 私は夕方五時以降は仕事をしないと決めているので、逆に気分転換になりますね。
内田 ええっ、そのスケジュールでどうやってあの仕事量を!? そうだ早起きなんですよね。五時起きでしたっけ。
伊藤 原稿を書かなきゃいけないときは、朝、二時半に起きたりとか。
内田 もはや朝じゃない(笑)。
伊藤 夜は九時半ぐらいに眠くなっちゃうので、そしたらもう寝ます。
内田 寝ないと書けないですもんねー。
伊藤 私はたまたま好きなことが仕事になっているので、それがいいのかも。娘を授かったときも、今までと違う仕事ができるかも、と思いましたし。
内田 私も仕事をやめようと思ったことはなかった。養ってくれるような男と付き合わなかったというのもありますが(笑)。私の場合は母乳がいっぱい出たから一年はあげることにして、その間はずっと一緒にいられました。おっぱいあげながら漫画描いたりして。
伊藤 娘に、この前「ママが自分の人生生きててくれてよかった〜。だって楽だもん」って言われました。きっと寂しかったこともあったと思いますが、いま一六歳で、本当に手がかからなくなってきて、そんなときに仕事をしてなかったら私はどうしてたんだろう? と思うこともあります。
内田 中学二年生の息子の同級生で、お母さんが子どもに手をかけすぎて関係が悪くなっている親子がいっぱいいますよ。そんな子たちがぞろぞろうちにきてうだうだしてます。
伊藤 何が正解かはわからないから難しいですよね。
障害があると燃える
伊藤 そういえば、『おやこレシピ』には、生き物の命をもらう食べ物が苦手な女の子が出てきますね。衝撃的でした。
内田 大学生の息子①のガールフレンドですね。肉とか魚とかが食べられない。彼女が来ると、唐揚げの時は一緒に大豆唐揚げを揚げたり、グラタンなら鶏肉をよけてよそったり。おひたしにおかかかけちゃうと食べられないんで、おかかは横に置いておく。
伊藤 ええっ......大変〜。
内田 うん、大変。でも障害があると燃えるのは恋と同じです(笑)。
伊藤 その状況を楽しんでらっしゃるのがすごい。私だったらできないなあ。
内田 自分の子どもだけでも四人いるから、合わせることに慣れてきますね。その友達がアレルギー持ちっていうこともあるので。大豆アレルギーと知らずに作ったアイスクリームで「これ豆乳で作った? 俺のセンサーが作動してる」と言われてあわてて水を飲ませたり、そうかと思うと牛乳アレルギーの子もいるので、豆乳で紅茶淹れたり。
伊藤 私はそういう子がまわりにいなかったので、読んでてびっくりしました。子どもにこれは食べさせちゃだめ、とか何か食べさせなきゃ、とか思ったこともあんまりないんです。よく育児まわりで「子どもが食べてくれる」っていう言い回しがあるでしょう? その言葉になぜか反応してしまう。別にいいじゃん、いつか食べる時も来るし、って思います。
内田 私なんて離乳食作ったことない。息子①が生まれたころは全然料理しなくて、彼は居酒屋の冷奴で育ちました。
伊藤 結構どうにかなるんですよね。有名な料理家の方も、お子さんを居酒屋によく連れてったっておっしゃってて、そうなんだ! と思って。
内田 豆腐とか茶碗蒸しとか、食べられるものが結構ありますよね。なのに当時は保健師から「やっぱりお母様の手作りじゃないと〜」と言われて、ケンカになりそうでした。泣かせようかと思った。
伊藤 こわい(笑)。でもそれから料理をされるようになったいきさつは?
内田 離婚してからも六年間一緒に住んでいた男が出て行ったからです。
伊藤 あははは!
内田 いよいよ私しかやる人がいなくなったんですけれど、最初は本当に全てが下手で、買い物のために二〇年ぶりに自転車に乗ったのに、家に帰ってくると豆腐がなくて、道にぽつんと落ちてたとか。そういえばいま、運転免許の教習所に通っているんです。目標はひとりでイケア、コストコに行くこと。
伊藤 免許が取れたら、一緒に乗ります! 内田さんの運転なら、事故っても大丈夫な気がする。
内田 それ、ダメじゃないですか(笑)。
伊藤 そうでした(笑)。そういえば最近、縫ってますか? だんだん子供たちも大きくなると「もう親の作ったものはいらない」ってなりません?
内田 文化祭の時に、マーチングバンドの服を作って欲しいって言われて。売ってるのはちょっとセクシーな感じがして嫌なんだって。あと息子②は今でも私が作ったパジャマ着てます。もともと彼の兄が小学六年生のときに作ったからペラッペラなのに、中二の息子がまだ着てる。
伊藤 うちはこの前、部屋着作ってって言われてパンツをさーっと縫ったら、すっごい驚かれた。早い! って。
内田 作ってって言われるとうれしいですよね。服でも、おやつでも。
伊藤 ねー!
(二〇一五年一二月四日、神楽坂 la kagū にて)
(うちだ・しゅんぎく 漫画家・小説家)
(いとう・まさこ スタイリスト)