書評・エッセイ

2016年6月号掲載

『老いも病も受け入れよう』刊行記念特集

病のおかげで、いちばん大切なことがはっきりしました。

瀬戸内寂聴

対象書籍名:『老いも病も受け入れよう』
対象著者:瀬戸内寂聴
対象書籍ISBN:978-4-10-311226-6

img_201606_01_1.jpg ――今年九十四歳になられた瀬戸内寂聴さんは、八十八歳の秋に腰椎圧迫骨折で半年間寝込みました。まったく歩けない状態から二〇一一年の震災をきっかけに復活、その後は元気に活動されていました。しかし九十二歳の春に再び圧迫骨折で入院、そこで胆のうガンが見つかり、全身麻酔で摘出手術をされました。

 現在はリハビリを重ねて回復され、お元気になられましたが、長く寝込んでしまった状況から、二度も復活された寂聴さんの力の源はどこにあるのでしょうか。病になってつかんだ元気と長寿の秘訣を、はじめての闘病記『老いも病も受け入れよう』でお読み下さい。

本書「はじめに」より
 人間が生まれてくるのは、必ず死ぬためです。
 現在、日本は世界一の長寿国になっています。百歳以上の人は六万人を越えているそうです。しかし、長寿の人が必ずしも健康体とは言えません。動けなくなり、下の始末も人まかせになり、認知症になっている人もたくさんいます。その介護に家族は泣かされています。
 そうした逃れられない老いの行く手には、これもまた逃れられない、死が待ちうけています。
 医療は目覚ましい進歩をとげ、たいていの病気を治す薬を発明し、手術も進化の一途をたどっています。
 あらゆる宗教も、人間の老いと死を考えぬいた結果、生まれています。
 それでも人間は、必ず襲い来る老いと死に脅え、恐れ、厭わないではいられません。
 私は、二〇一六年五月十五日に満九十四歳(数え九十五)になりました。
 これまでにさまざまな病気にもかかっています。最近では、九十二歳で胆のうガンの手術もしています。
 足腰は相当不自由になりましたが、まだ一人で歩けるし、毎月、締め切りのある小説を書き続け、僧侶として月に何度か法話も続けています。
 身の回りの肉親も友人も、次々に波にさらわれるように慌ただしくあの世へ去っていきました。
 今夜死んでも不思議ではない自分の、老いと死を見つめ、どのように最期を迎えようかと考え続けています。
 結論として、今のところ、「老いも病も死も、受け入れよう」という考えにたどりつきました。闘うことも、逃れる方法もあるかもしれません。でも、私のいま行きついた気持ちは、それが持って生まれた人間の運命なら、すべてをすんなり受け入れようというものです。そしてそれは思いの外に、心の休まる結果を招いています。
 やがて必ず迎えられるあなたの老いと死の参考にしていただければ幸いと思います。


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 (せとうち・じゃくちょう 作家)

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