書評・エッセイ

2016年6月号掲載

特集 村上柴田翻訳堂、営業中です。

大人にも子供にも属せない孤独を抱えて

The Member of the Wedding
McCullers, Carson

角野栄子

対象書籍名:『結婚式のメンバー』
対象著者:カーソン・マッカラーズ/村上春樹訳
対象書籍ISBN:978-4-10-204202-1

 カーソン・マッカラーズの作品に出会ったのは、半世紀プラス十年も昔の事でした。大学の英文科の学生だった私は、『結婚式のメンバー』が入った作品集をたまたま手に入れ、未熟な英語力で、行ったり来たりしながら繰り返し読むうちに、登場する少女たちが、自分のことのように感じられ、卒論はこの作家について書いてみたい、と強く思いました。それに、まだだれも書いてない! 第一発見者のようなちょっとのぼせた気分でもありました。でも、本国での出版と同年、一九四〇年に、『心は孤独な狩人』が『話しかける彼等』というタイトルで、日本で出版されていたのです。訳者は、画家、中川一政氏の夫人、中川のぶ(本名は暢子)さんでした。
 その後まもなく海外暮らしに入ったこともあって、私はマッカラーズから長く離れていました。でも帰国後、映画『バスストップ』で、マリリン・モンローがマッカラーズの本を手にしていたのを見て、「とってもすごい作家なの。翻訳を出して」と出会う編集者に勧めたりしていました。この度、村上春樹氏の訳で再会を果たしました。素晴らしい解説付きです。待てばいいことがありました。
 マッカラーズの書く少女、『結婚式のメンバー』のフランキーと『心は孤独な狩人』のミックはともに十二歳です。ずいぶん年上だったにもかかわらず、当時の私は、彼女たちとどこかで息がふっと合ってしまったのです。自分の十二歳の頃を振り返ってみても、「変!」としか言いようのない、おかしな時期でした。「私、私」と主張したいのに、できない。かといって、簡単に自分を受け入れられるのも嫌......。
『結婚式のメンバー』のフランキーも、まさしくそんな季節の中にいます。身長は日々恐ろしいほど伸び続け、このままでは「フリークス館」の見世物になってしまいそう。大人にも子供にも属せない孤独を抱えて、焦げてしまいそうな暑い夏、出ることも入ることもできない街をさまようのです。ここではない何処かへ行かなくちゃ、という妄想にとりつかれ、内側から噴き出てくる訳のわからない情熱を抱えながら。
「結婚式に恋する人間がいるなんて話は初めて耳にしたよ」使用人のベレニスはフランキーに言います。でも、彼女にとって、兄の結婚式は、ここではない何処かへ向かうメンバーになるための重要な道だったのです。
 ストーリーは、さして大きく動くわけではありません。けれども、熱も、乾きも、光も、影も取り込んで、音楽を奏でるようにゆっくりとまわっていきます。聞こえたり聞こえなかったりする猿使いのオルガンの音を謎めいたアクセントにして......。数十年経って読み返しても、なんとも不思議な作品です。それでいて恐ろしいほどリアル。この感触をお伝えするには、もう十二歳のフランキーに出会ってもらうほかありません。

 (かどの・えいこ 童話作家)

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