書評・エッセイ

2017年4月号掲載

面白がりのアウトサイダー

――藤井青銅『幸せな裏方』

マキタスポーツ

対象書籍名:『幸せな裏方』
対象著者:藤井青銅
対象書籍ISBN:978-4-10-350881-6

 ジャンルに縛られない、アウトサイダー。

 それが、この本を読んでの藤井青銅さんの一番の印象です。ショートショートでデビューして、放送作家、作詞家でもあるというマルチな経歴もありますが、今で言うライトノベルを青銅さんが刊行したときのことを書いた「ラノベ前夜」というエピソードがあります。「マンガみたいな小説を作る」という着想から、定義づけされるずっと前に、ライトノベルというジャンルの源流を開拓しました。
 これはジャンルに特化する専門家には、絶対に思いつかない。青銅さんはどのジャンルでもずっとアウトサイダーであり、だからこその発想なのだと思います。生意気なようですけど、そこに一番シンパシーを感じました。
 というのは、僕も、音楽やお笑いにおいて、自分がアウトサイダーだと感じているから。
「トーキョー・ギター・ジャンボリー」というアコースティックギターのイベントに出演させていただいたときのことです。浅井健一さん、斉藤和義さん、トータス松本さん......といったそうそうたるメンバーの中、僕も弾き語りをさせていただきました。イベントはもちろん大盛況で、打ち上げではみんなひたすら楽しそうに、楽器や機材についてなど、音楽の話をしている。あぁ、これこそがミュージシャンなんだなと思いました。
 また、お笑いの現場に行くとよく感じるのですが、芸人は技術論が好きな人がすごく多いんです。こういうフリだからこういうオチで......とか、手数の多さとか。あるいは、スパーリングのように日頃の会話からボケツッコミをしているとか。それは技術を高め合うような部分もあるんですね。そこに乗り切れていない自分がいて......。
 でも、僕みたいに純粋なミュージシャンや、お笑い芸人ではないからこそ見えるものもあって、そのジャンルがちょっと活性化するお役には立てるのではないかと思うんです。常に「こういうのもあるんじゃない?」と提案する気持ちでやっています。青銅さんも、きっと同じような気持ちなのではないか、と想像しました。
 もうひとつ青銅さんにシンパシーを感じるところがあって、たとえロスがあっても、台本は「長めに書いてから削る方が面白い」と、なんでも多めに出すところです。それって、コストパフォーマンスはすごく悪い。
 僕も原稿を書くとき、筆を執るまでは腰が重いんですけど、書き出すと多めに出しがちです。生まれちゃったものはしょうがないから、と思って。まわりから「無駄なところに時間をかけすぎ」「妙なところで完璧主義」などと言われますが、ほとんどの人が気付かないとしても、こだわって作りたいし、自分もそういう風に作られたものを楽しみたいという気持ちがある。だから、青銅さんの「多めに出す」話は、うれしくなっちゃいました。
 それって、「町の発明家オヤジ」みたいなものではないかと思うんですね。特許申請をたくさんしていて、たとえほとんどが役に立たないようなものでも、発明しちゃいたいという欲がある。おそらく生来の面白がりなのでしょうね。
 そんな青銅さんが裏方視点で書いたこの本は、「テレビやラジオがつまらない」と思っている人にこそ、読んでほしいと思います。
 テレビ番組『プロフェッショナル 仕事の流儀』などで、ある製品の裏にある職人技・匠の技を知ると、それを使うときの意識が変わる、なんてことありますよね。
 テレビやラジオも同じではないかと思います。普段は作品という結果を見たり聞いたりしているけれど、たとえば僕なんかは、歌番組のスイッチャーの技術はすごいし、ドラマ撮影での録音部の技術はやばいよ!!と思う。
 青銅さんの綴る、裏方としての職人技を知ってから見聞きするテレビやラジオは、感じ方が違うと思います。きっと新たな面白さを発見できるはずです。

 (まきたすぽーつ ミュージシャン・芸人・俳優・コラムニスト)

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