書評・エッセイ

2017年4月号掲載

カイシャとしての警察、そのリアル

古野まほろ『警察手帳』

古野まほろ

対象書籍名:『警察手帳』
対象著者:古野まほろ
対象書籍ISBN:978-4-10-610707-8

 平成9年というと、もう20年も昔になるが、この年は警察にとって、ある意味画期的な年であった。『踊る大捜査線』が放映されたからである。
 この斬新な警察ドラマは、第一線の現場警察官に、極めて好意的に迎えられた。現実の、カイシャ内における日常の冗談から捜査車両内の会話、あるいは年賀状の一筆に至るまで、このドラマにおけるネタが多用されたほどである。著者はそれを体験的に証言することができる。
「本店」「支店」といった言葉はドラマからの逆輸入の形でブレイクしたし、その「支店」相互の描き方などは、「ああ、確かにやってるよ、こういうショボいこと」と現場警察官をしみじみさせた。また当時、若手の警察キャリアに対し、現場の仲間がつける仇名(あだな)は大抵「古野本部長!!」(やがて社長になって帰ってくる丁稚(でっち)、という揶揄(やゆ))といったものであったところ、このドラマ以降は圧倒的に「古野管理官!!」が多くなった。無論ドラマ内の、柳葉敏郎演ずるキャリア・室井管理官の影響である。またキャリアは異動がはやいので、離任するときなど「これからも室井と青島の関係でゆきましょう!!」といった餞別(せんべつ)の言葉を受けるのは、当時のいわゆるテンプレであった。それほどに、この20年前のドラマは、警察自身にとっても画期的だったのである。
 では、どこが画期的で、なぜ現場警察官多数の共感を得たのか。それは、「カイシャとしての警察」をリアルに描こうとしたからである。
 警察官は、刑事は、会社員としてどんな1日を過ごすのか。勤務はどう始まりどう終わるのか。同僚との関係・上司部下の関係は、民間と大きく違うのか。部門のセクショナリズム、横の縄張り意識、本店・支店・警察庁の身分差はあるのか。身分差というなら、キャリアとノンキャリアの実際はどうか。はたまた、ノンキャリア相互の出世競争みたいなものはあるのか。そもそも、警察官のキャリアプランはどのようなものなのか......
 こうしたことは、フックとしての情報が提示されれば、民間企業等の在り方からも類推することができる。そして、自分の勤務先を基準に、「どこまでズレているのか」「どこまで一緒なのか」を比較できる。それは、『半沢直樹』にみられるように、身近なカタルシスにつながるであろう。まして、とかく謎と秘密の多い警察組織については、いまだ警察小説・警察ドラマ等が人気であるように、その実態についてのニーズが強い。
 そこで、カイシャとしての警察の「ホント」を、特に意外と知られていない(考証ミスも多い)点を中心にまとめてみた。最前線の交番から、参謀本部の警察庁までを経験した者として――そして現在は本格ミステリ作家である者として、市民と警察の橋渡しができることは、望外の喜びである。

 (ふるの・まほろ 作家)

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