書評・エッセイ

2017年7月号掲載

イクメンとは次元がちがう

――樋口毅宏『おっぱいがほしい! 男の子育て日記』

眞鍋かをり

対象書籍名:『おっぱいがほしい! 男の子育て日記』
対象著者:樋口毅宏
対象書籍ISBN:978-4-10-316933-8

 タイトルを見て「ああ、最近よくあるイクメンの育児日記でしょ?」と思った人。その予想、大ハズレですよ。
 そもそも、私はイクメンという言葉が苦手である。男性の育児参加を促進するという目的においては非常にキャッチーで浸透しやすいワードだったと思うけれども、最近巷に増殖している「いかにもファッション的にイクメンぶる輩」や「イクメンの旦那を持つアタシアピールをする女」はうすら寒く感じ、生理的に受け付けない。
 この本の著者である樋口毅宏さんは、イクメンとは次元が違う。手伝いなんてレベルではない、男によるガチの子育て。でも、本当にすごいのはそこじゃない。父親として全力で乳児に向き合うことよりも遥かに壮絶に思えるのが、彼の夫としての奮闘っぷりだ。
 TBSの朝の情報番組「ビビット」で共演させてもらっていた女性弁護士、三輪記子さんの旦那さんが週刊新潮で連載をしているらしいと聞き、さっそく買って読んでみたのが、このコラムを知ったきっかけ。初めて読んだときは、何かの間違いじゃないかと二度、いや三度も読み返してしまったほどの衝撃を受けた。
 三輪さんとは同じくらいの子供を持つ母として、毎回の打ち合わせ中やCMの合間、一緒にママトークで盛り上がっていた。「習い事とかやらせますか?」「本人の才能を伸ばしてあげたいですよね~!」「いい知育ツールあったら教えてください♡」東大卒で頭の回転が速く、産後も弁護士やタレントとしてバリバリ働いている三輪さんは、私にとって憧れの先輩ママ。ぜひぜひ東大ママの子育て法を参考にさせてもらおう!と、私はすっかり「ママ友モード」で、いつも彼女とホンワカした子育てトークを繰り広げていたのだ。 そ、そんな三輪さんが......。
「ヤリマン」「絶倫」「夫への暴言」etc.......コラムに「妻」として登場する三輪さんは、なんだかもう、とにかく凄いことになっていた。え......? コレ、本当に三輪さんのことなの......? にわかには信じられない。
 しかしながら、これまでのことを思い返してみると、ただならぬ違和感を感じる瞬間は確かにあった。
「子供を産むと、それまで素敵だなと思っていた人とか、若いイケメンとかが無理になりません?」
 私がそう三輪さんに質問したときのこと(ちなみに私は、プロレスラーの中邑真輔選手が大好きだったが、産後は彼のクネクネした動きがセクシー過ぎて受け付けなくなった)。
すると彼女は激しく相槌を打ちながら、食い気味にこう仰ったんですよ。 「わかります、わかります! この私ですら、そうなりましたから!」
 ん......? この私で......「すら」......? ちょっと待て、あんた一体何者なんだ!?
 そのとき感じた違和感が、コラムを拝読して「なるほど、そういうことね」と、キレイに解消したのだった。三輪さんて、"やべえヤツ"だったんですね。
 次の週に直接本人にそれを確認すると、彼女もあっさり「そうなんですよ!」と認めたため、それからは憧れのママ友改め"やべえヤツ"として交流することにした。CM中の時間が、何十倍も楽しくなった。
 最初こそびっくりしたものの、男の子育て日記を読み続けると、不思議なことにフッと肩の力が抜けて楽になる瞬間がある。子育てをしていると、世間からの「聖母光線」にさらされて無意識のうちに自分を「良き母像」に寄せようとしてしまうところがあるのだが、彼らのぶっ飛んだ子育てエピソードは、そんな聖母もどきの私を見えない圧力から解放してくれたのかもしれない。親になったからといって「生まれてきてくれてありがとう」のような耳ざわりのいい言葉ばかり口にする必要なんてないのだと、改めて気付かされたのだった。
 もちろん、子を持つ親ならだれもが共感するであろう息子の一文くんへの愛情も、本書の端々にちりばめられている。我が子がもたらしてくれる幸せ、どんな人間に成長するのだろうという希望が、樋口さんの豊富な知識とボキャブラリーで語られていてとても楽しい。これから先、一文くんのイヤイヤ期や思春期をこのご夫婦がどのように過ごしていくのか、楽しみでならない。ぜひ、続編をお待ちしています。

 (まなべ・かをり タレント)

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