インタビュー

2017年10月号掲載

『ホワイトラビット』刊行記念インタビュー

立てこもり事件とミステリー

伊坂幸太郎

どのようにして『ホワイトラビット』はできあがったのか?
お話を伺いました。

対象書籍名:『ホワイトラビット』
対象著者:伊坂幸太郎
対象書籍ISBN:978-4-10-125032-8

 読み心地がよく、楽しくて、ミステリー感がある、エンタメらしいエンタメを書きましょう! という話になって、いくつかアイディアを考えたんです。一年半くらい前ですかね。アイディアの一つに映画『ダイ・ハード』みたいな派手で硬派な籠城物をというのがあって、その案が生き残って、発展し、結果的にはまったく違う雰囲気の話になりました(笑)。『ホステージ』や『交渉人』みたいな、人質立てこもり物で、警察側と犯人側との緊迫した攻防戦、そして裏に何かが隠されている、という映画が好きなんですよね。結果的にはかなり、『ホステージ』っぽくなったんですけど、これはこれで僕だから書けたものにはなったんじゃないかな、と思っています。最初は、ボリュームもそれほど必要ないし、数ヶ月くらいで簡単に出来上がると思っていたんですよ。実際は全然そんなことはなく(笑)、けっこう苦労しました。

 新潮社から出る書き下ろし小説としては、『ゴールデンスランバー』以来、十年ぶりの本になります。といっても、大作というわけではありません。仙台の街が舞台のミステリーで、物語内で進む時間もそれほど長くなく、泥棒の黒澤も少し出てくるという意味では、『ラッシュライフ』に一番近いかな、と自分では思っています。雰囲気も似ているんじゃないでしょうか。一応、それなりに驚きも用意しているので、今もこういうミステリーを書こうと思えば書けるんだよ、と示すことはできたんじゃないかな、と。そうでもないかな(笑)。

『ホワイトラビット』というタイトル自体は、書き始める前にすでに決まっていました。書きだす前に打ち合わせを繰り返している段階では、「ウルフ」という言葉を使ったタイトルに傾きかけた時期もあったんですが、「ウルフ」だとどうしてもギャグっぽくなっちゃうんですよね、『ウルフ事件』とか。最終的には兎が狼に勝ちました。

 これまでもそうですが、プロットをきっちり立てて書く、ということはしないので、途中で矛盾点が出てくることもあります。それをひとつずつ、図を描いたり新しい要素を入れたりして解決しながら、書き上げました。設定が少しずつ変わっていったので、このままでは大事な部分が成立しなくなる! という想定外の危機もありましたが、なんとか乗り越えました。乗り越えられているはずです(笑)。

 オリオン座や『レ・ミゼラブル』が作中のいたるところに顔を出します。読まれた方から、最初から構想に入っていたんですよね、と訊かれますが、すみません、全然そんなことはないんです。まったくの後付けでして。もとにあったのは、立てこもり事件とミステリー要素だけで、あとはそれを成立させたり、豊かにするための衣でしかない、という。

 人質立てこもり事件を解決に導いた経験のある元警察官の方に取材もしました。規制線はどのくらいの範囲で引かれ聞き込みはどんなところにいくのか、どういう風に警察が立てこもり犯に接近するのかなど、細かいところまで伺うこともできました。想像していたものと一致することもあれば、全然違う、聞いてよかった! ということもあって、大変助かりました。もちろん小説の中では、あえて事実と違うように描写しているところもあります。というか、あまりそういう本格的な感じではなくなっちゃったので、申し訳ないくらいですが(笑)。

 今年は『AX』(KADOKAWA)と『ホワイトラビット』の二冊を出すことができました。そのぶん来年は新刊が出ないような予感もあるので、心配です。黒澤が出てくる話も書いていて楽しいのでまた作りたいですし、『ホワイトラビット』に出てきたある人物の話も、書いてみたい気持ちはあるんですよね。いつになるかは判りませんが(笑)。

 (いさか・こうたろう 小説家)

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