書評・エッセイ

2017年10月号掲載

核ミサイルと「慰安婦」

有馬哲夫『こうして歴史問題は捏造される』

有馬哲夫

対象書籍名:『こうして歴史問題は捏造される』
対象著者:有馬哲夫
対象書籍ISBN:978-4-10-610734-4

 以前から不思議に思っていることがある。なぜ、日本と韓国のメディアは、北朝鮮のミサイルと核の開発という国民の生死にかかわる問題が目の前にあるのに、そのような緊急性がまったくない「慰安婦問題」を騒ぎ立てるのだろうか。なぜ、国民の目を現在と未来、生命と財産よりも、過去と感情の問題へ向けようとするのだろうか。まるで、北朝鮮の意を受け、日韓両国民の感情を操作し、この「ならずもの国家」のミサイル・核開発から注意をそらそうとしているかのようだ。
 1990年代の米国国務省の日本・韓国・北朝鮮の状況報告書を読んで気付いたことがある。北朝鮮のミサイル・核開発が問題となった1993年に「慰安婦問題」も注目を集めるようになったということだ。それ以降の報告書も、読みようによっては、ミサイル・核の開発が進むと、それから目をそらさせるように、「慰安婦問題」が持ち出されてくるように思える。捏造ジャーナリストなら、これに飛びついて、都合のいい部分をつまみ食いして「北朝鮮がミサイル・核開発から目をそらさせるため慰安婦問題を捏造し、日韓のメディアを使って煽り立てた」と陰謀論を唱えるだろう。
 しかし、国務省文書のなかでは、韓国と北朝鮮は同じ地域のカテゴリーに入るので、米国にとって重要な事項がそのなかで並行的に報告されることになる。だから、並行関係にあるとは確認できるが因果関係があるとまではいえない。つまり、北朝鮮のミサイル・核開発が先行し、そのあとに「慰安婦問題」が出てくるのか、両者が原因と結果の関係にあるのか、証明はできない。
 しかしながら、国連人権委員会にクマラスワミ報告書が提出される1996年までには、北朝鮮が「慰安婦問題」を自らのミサイル・核開発から目をそらさせる道具として意識するようになっていたことは確かだ。当時の国連人権委員会の理事国として、韓国側のものよりもさらに信じ難い「慰安婦」の証言をほぼ丸ごとこの報告書に採用させているからだ。これを錦の御旗として、日韓のメディアが「慰安婦問題」を世界公認の「歴史問題」であるといい立て、一層日韓関係がこじれることになった。まんまと北朝鮮の術中にはまったのだ。
 今日の北朝鮮による核ミサイル危機を作り出した戦犯は数多くいる。8年間この問題に目を背け続けたバラク・オバマ前米国大統領、「慰安婦問題」を口実に2年間も安倍総理との会談を拒み続けた朴槿恵前韓国大統領、「慰安婦問題」を騒ぎ立て国民の注意をそらし続けた日韓メディア、それを抵抗なく読んでいた読者......。拙著『こうして歴史問題は捏造される』で、歴史を論じる上ではいくつかの基本的な知識や姿勢、すなわち「歴史リテラシー」が必要だと説いたゆえんである。

 (ありま・てつお 早稲田大学教授)

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