書評
2018年1月号掲載
バリアフリー化は進んだけれど
ホーキング青山『考える障害者』
対象書籍名:『考える障害者』
対象著者:ホーキング青山
対象書籍ISBN:978-4-10-610746-7
「バリアフリー」という言葉が世間に登場するようになったのは20年以上前である。少子高齢化社会に突入する中、福祉や介護の分野により注目が集まるようになり、よく使われるようになった。私はこの言葉が飛び交い始めたころに、身体障害者のお笑い芸人としてデビューした。
最初はとにかくなにをやって良いのかわからず、世間が障害者に抱いているであろう先入観や思いを逆手に取って利用しながら『24時間テレビ』の悪口を言い、やたら美化されがちな「パラリンピック」を嗤い、皆が知らないであろう障害者の日常や実は切実な性の問題をぶちまけ――と、とにかく、私以外はネタにしづらいテーマをしゃべりまくってきた。
別に「障害者を理解してもらうために」なんて崇高な使命感のようなものはまったくなく、自分がしゃべったら一番ウケるだろうネタを選んで、しゃべってきたのだ。芸人なのだから。
そして、気がついたらデビューしてから20年以上経っていた。
NHK‐Eテレでは『バリバラ』という障害者のバラエティー番組が始まった。「障害者の既成概念を破る番組!」と結構話題にもなったが、内容は私がデビューしたころやってた話を焼き直しているだけのようでピンとこなかった。
しばらくして今度は乙武洋匡氏の不倫問題が起きた。「障害者のスキャンダル」はかなり珍しく大騒ぎになったが、どうもコメンテーター等が語っていることがいまひとつ本質を突いていないように見えた。「障害者だからって特別扱いすべきではない」というタテマエから乙武氏を批判している人がいる一方で「障害者をそこまで責めていいものか」という妙な遠慮も垣間見えた。どこか及び腰なのだ。ひょっとするとわざと本質を突かないようにずらしているのでは? とさえ思える論調も多く、すごく違和感を覚えたものである。
その数か月後には日本中の障害者を震撼させる事件が起きた。あの相模原での「やまゆり園事件」だ。今もあの被告は「障害者は殺していい」と主張し続けているという。この事件についての議論も、どこかピンボケに私には思えた。
これらの障害者に関する様々な出来事、事件は「社会にとって障害者とはなにか」「社会(健常者)は障害者とどう接するべきか」という根本的な問題を社会や個人に突きつけていると思う。
この20年で、障害者のためのインフラはかなり整い、バリアフリー化は進んだと思う。その一方で、実は右に述べたような根本的な問題に関してはあまり進歩がないようにも感じる。
こんなご時世だからこそ、あえて自分の考えを世の中に問いかけてみたい。そんなことを考えながら書いたのが拙著『考える障害者』である。
(ほーきんぐあおやま お笑い芸人)