書評
2018年2月号掲載
日本の田舎は世界の宝
山田拓『外国人が熱狂するクールな田舎の作り方』
対象書籍名:『外国人が熱狂するクールな田舎の作り方』
対象著者:山田拓
対象書籍ISBN:978-4-10-610748-1
日本が人口減少し始めて間もない2007年の10月、私は「クールな田舎をプロデュースする」株式会社美(ちゅ)ら地球(ぼし)を、岐阜県の飛騨古川という街に立ち上げました。この会社では、何気ない風景をサイクリングツアーなどの形態で世界各国から来られるゲストに体験してもらうSATOYAMA EXPERIENCE(里山エクスペリエンス)という着地型ツアー事業を提供しています。また、BtoC(対顧客)ビジネスで得た経験をフィードバックして、日本の地方部における新たなビジネスのあり方を考えるBtoB(対組織)のコンサルティングビジネスも手がけています。
創業から10年の節目で本書の執筆に向き合うことを決めたのには、おおきく2つの理由があります。ひとつは、私たちのこれまでの蓄積に対して、国内外の様々なメディアでご紹介頂いたり、大臣の名前が入った表彰状がオフィスに何枚も並んだり、私自身全国各地からお呼び頂いたりと、各方面よりご評価頂く機会が増えてきたことがあります。自分たちが向き合って試行錯誤してきた過去10年間を整理し、同様の分野に興味を持つ方や地方部での活動に従事する方に、改めて田舎でのビジネスの可能性を感じて頂きたい。そして、私たちの試行錯誤を地方創生の流れの糧として頂きたい、と感じたからです。
もうひとつは、地方部での新たなビジネスチャンスに関する例示という側面に加え、俗に言う「ワークライフバランス」の実現の選択肢の1つとして、地方部での生活の素晴らしさを伝えたい、ということがありました。人口や情報が過度に都市に集中する日本社会のライフスタイルに疑問を持つ人々も数多くいらっしゃるようですが、現実には地方への移住はハードルが高いと感じられる方がほとんどでしょう。そういう方々に、地方部での新たなチャレンジは、没頭できるライフワークとプライベート・ライフの両立を可能にするチャンスとなりうることをお伝えしたかったのです。
もし本書を手に取って頂く機会があれば、読者の皆さんには、シンプルにたった1つのメッセージをお感じ頂ければと思います。それは、身の回りにある「当たり前」を疑い、自らを信じて動けば道は開けるということです。田舎の何気ない日常が世界の旅行者から賞賛されていること、そんななりわいを創ったら地方部に若手住民が増えたこと、大手企業に雇われるより田舎の零細企業を営むほうが豊かであると感じられることなどは、都市に住む方にはなかなか実感して頂けないかも知れません。私たちのこれまでの取り組みを手がかりに「当たり前」を見直し、自分なりのライフスタイルを志向する人がこの社会に一人でも増えたとすれば、上梓までの労苦は私の更なるライフワークの糧に変わるでしょう。
(やまだ・たく 株式会社「美ら地球」代表取締役)