書評

2018年6月号掲載

居心地の悪さの根拠

黒川祥子『PTA不要論』

黒川祥子

対象書籍名:『PTA不要論』
対象著者:黒川祥子
対象書籍ISBN:978-4-10-610765-8

 末子が高校を卒業した時、「これでようやく、年季が明けた」と心からの解放感を味わった。それが私にとってのPTA体験だった。
 子どもを人質に取られている以上、やらざるを得ないと役員を引き受けたものの、地区の全戸を回っての会費徴収や仕事への遅刻覚悟の登校時の旗振り、煩雑な作業を要求される広報誌作り等々、やっていることにほとんど意味を見出せない苦痛ばかりか、知らないうちに自分の心情や意思にかかわらず、何かに巻きこまれている居心地の悪さがあった。別に私は「俗悪番組」などどうでもいいのだが、PTA会員になっていることは、追放の一翼を担っているわけだ。PTAで自己実現を図りたい母親たちからの、無視といういじめも体験した。PTAとは簡単に誰かを「ハブる」ことができるのだと、身をもって知った。
 喉元過ぎれば......と思っていた私だが、実際にPTAに向き合ってみて、心底、驚いた。あの時、感じた苦痛や居心地の悪さには根拠があったのだ。取材の過程は、うわー!とのけぞったり、思わず膝を打ったりの連続となった。
 出会った母親たちは皆、叫びにも似た思いを抱えていた。新年度の最初の保護者会は、「恐怖の保護者会」と化す。教室に「軟禁」状態にされての、役員決めが行われるのだ。フルタイム勤務、乳飲み子がいる、ひとり親、介護中など、それぞれの事情は一切考慮しないと宣言されてのことだ。
「一切の事情を考慮しないって、今どき、どんなブラック組織? PTAって子どものための組織でしょう? なのに、自分の子どもを放置せざるを得ない状況に今、追い込まれている」
 母親たちの数々の本音は、まさに正鵠を得たものだった。PTAはそもそも任意加入の団体であって、軟禁されてまで役員決めを強制させられる根拠はない。しかし私自身もそうだが、一度も任意加入という説明を受けたことがないが、これは「組織的詐欺罪」に当たると、憲法学者の木村草太氏。任意加入を隠そうと本部役員が話し合った時点で、「共謀罪」が成立し、強制加入を規約に謳えば憲法違反になるという。
 そこまでしてもなぜ、PTAを存続しようとする力が働いているのか。取材の過程で結果的に収斂されて行ったのだが、そこが本書の核心だ。
 PTA会員だった当時は知る由もなかったが、一学校のPTAは国へと連なるルートを有していた。たとえば公立の小中学校PTAの全国組織「日本PTA全国協議会」に加盟する児童数だけで約840万人。教職員、さらに連携する国立、私立、高校まで含めるとPTA関係者は1000万人を超える。日本最大の有権者組織といえ、使い勝手はきっと無限にある。
「楽しいPTA」を掲げる類書とは一線を画す、歴史にまで遡りPTAと向き合った一冊。辿り着いた結論が、タイトルとなった。

 (くろかわ・しょうこ ノンフィクション作家)

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