対談・鼎談
2018年11月号掲載
竹宮ゆゆこ『あなたはここで、息ができるの?』特別対談 特集*ダイアローグ!
「貪欲」は女子の強さの証
竹宮ゆゆこ × 中川翔子
対象書籍名:『あなたはここで、息ができるの?』
対象著者:竹宮ゆゆこ
対象書籍ISBN:978-4-10-180188-9
竹宮 私は小説家としてデビューしたのが2004年なんですが、最初に短編が雑誌に載って、でも新人賞をとったわけではなくて、だから一話で終わってしまうのか、文庫が出せるのか、未来が見通せない時期があったんです。一方で、会社は辞めてしまっていたので「小説の続きを書いてみて」という編集者のふわっとした言葉に乗るしかなくて。それで、先の見えない孤独というか、「いま、ちょっとヤバいな」という時に、あるブログに出会って。
中川 ま、まさか。
竹宮 本当にたまたま、友人から「面白い子がやっているサイトがある」「コスメに詳しくて、化粧品とかたくさん紹介されてて、参考になる」と聞いて、「へぇー」と思って見始めた。それが中川さんのブログだったんです。
中川 ええー、初期の初期の初期ですよね、その頃は。懐かしい。
竹宮 深夜に執筆をしていると、しーんとして、ここに未来はないのかもしれない、と感じられる瞬間があって、それはすごく淋しくて。そんなときに「あ、しょこたん更新しているかな」と思ってブログをみると、大体いつも、更新してる。こいつ、起きてるぞ、って。
中川 あはははは(笑)。
竹宮 何か、心を開いてくれている感じがしたんですよね。書き方なんです。仲良しの一番可愛い子のブログを見ているような、すごく近い距離感で言葉があって。もちろん、芸能人のブログだっていうのはわかっているんですけど、嘘がない本当の気持ちではしゃいだり、好きだ、って書いているのが伝わってきました。パソコン越しにただブログを読んでいるだけだったんですが、中川さんの言葉に、本当に救われました。
中川 嬉しいです。ブログは「どうせ、読まれないだろう」ぐらいの気持ちで始めたんです。学生時代は全然友達ができなくて、お仕事もあまり上手くいかなくて「もう私、これからどうしよう」という感じで。私って、やっぱりダメなんだ、と腐っていたから、せめて好きなことを書き記したい、と思ってマネージャーさんに「日記をやらせてください」とお願いして。でも、好きなことを書こうと思ったら、いつの間にか更新すること自体にハマってしまった。
竹宮 そう、鬼更新でした。いつ見ても更新されてて、楽しくて。
中川 実家がゆるくて、朝方まで母親とごろごろしながら漫画を読んでる、みたいな生活がごく自然にあったので、明け方に起きているのが当たり前だったんです。更新を続けていく中で、だんだんとリアルに思っていることを口で言うより先に書くようになって。書けば書くほど楽しくて。私自身が言葉にポジティブにしてもらえた経験でした。でも、まさか竹宮先生に読んでもらえていたとは......。
竹宮 この同じ時間、ちょっと離れたところで、この女の子が面白いことを書いている、というライブ感に救われましたね。今ならツイッターとかインスタとかありますけど、でも、あの濃度で心を開いてくれる人は、やっぱりいないと思います。とにかく、エネルギーが凄かった。
中川 それが未来への種まきになっているとは夢にも思わず、夢中で書いてました。あの頃、わけもわからず書いていた言葉たちが、今のお仕事にも繋がっていたりして、助けられています。
竹宮 当時から感じていたんですが、中川さんの知的探究心は凄まじいですよね。ファンクラブに「貪欲会」って名前をつけられていますけど、中川翔子といえば「貪欲!」って感じがします。
中川 自分の中でハマった単語なんです、「貪欲」(笑)。
竹宮 ブログを書いて、役者をして、歌手もやって。好きなことをやり尽くすイメージです。他に類を見ない、というか。「貪欲」オーラが身体から......。
中川 出ちゃってますかね。
竹宮 出てます。間違いなく。たとえば、スカシカシパンの話をしていいですか。
中川 あ、はい。急ですね(笑)。私が大好きなスカシカシパン。
竹宮 スカシカシパンって海の生物で、ウニの一種なんですけど、私は中川さんが話しているのを聞いて、初めて知りました。なんであれに興味を持ったんですか。
中川 祖父が昔、図鑑を買ってくれて、それで知ったんですけど、見た瞬間からスカシカシパンだけは特別で。「卒業文集で好きな男子がここにいた!」みたいな。閉じたら忘れられなくなりました。
竹宮 「見つけた!」って感じですね。
中川 スカシカシパンマンってキャラクターを自分で作ったり、ラジオでコーナーを作ったり......。
竹宮 その好奇心は本当に凄いです。たぶん、突き詰めるとオタク気質ってことなのかな、と思うんですけど。失礼ながら、同じ種類の人間のような気が......。
中川 失礼ながら、同じ気質だと思います(笑)。
死んでも残るものは嬉しい
竹宮 昨日、中川さんがプリンセスを演じているディズニーの「塔の上のラプンツェル」を観たんです。今まで見逃していたので、お会いできるならこの機会に、と思って。
中川 わざわざ観ていただいたんですか! ありがとうございます。
竹宮 私は今回、中川さんが声をやってらっしゃると思って観たんですけど、ラプンツェルの声がとてもナチュラルというか、良い意味で中川翔子っぽくなかったんですよね。そこが新鮮で。
中川 めちゃくちゃ嬉しいです。私はアニメーションでタレントの顔が浮かぶのは違うと思っていて、だから役を受けた時の目標として、中川翔子感を消したいのと、ラプンツェルが喋っているように演技したい、ということがあったんです。ただ、私の感じを消し過ぎると、中川翔子を選んでもらった意味合いと違ってきてしまうし、そこはとても悩みました。
竹宮 映画の中で、ラプンツェルは笑うと口元が可愛いんですよね。歯が見えて。この笑顔と中川さんの声がぴったりで、中川さんでありラプンツェルである、となっていて、だから、いま目の前にいるのは「リアル・ラプンツェル」なんです、私にとって。
中川 嬉し過ぎます。鳥肌が立ちました。
竹宮 声のお仕事といえば、今度はマーベルの「ヴェノム」でヒロインの声を担当されてますよね。ニュースを観て、ヴェノム化した中川さんの写真があって、あ、合成かな、と思って記事を読んでいったら、「え、変身?」「え、メイク?」となって、びっくりしました。
中川 あれ、特殊メイクではなくてペイントだけだったので、八時間もじっとしていたんです(笑)。
竹宮 八時間!
中川 耳の穴まで塗られて、しかもよく考えると、私はヒロインの声の担当なのに、メイクはヴェノム、という(笑)。でも、スタッフさんの「やろうぜ!」という空気が面白くて。何より、写真や歌は、私が死んでも残るものなので、ディズニーもマーベルも、やれたことが嬉しかったですね。
こんなところで終われない
中川 私が竹宮先生を知ったのは「とらドラ!」で、あの作品が大好きで、ヒロインの逢坂大河にずっと憧れていたんです。髪の毛を茶色でロングにしているのも、彼女の影響で。今日も実は、大河ヘアーです。
竹宮 うわぁ、嬉しいです。大河の髪型にはこだわりがあって、普通の女の子が憧れる「可愛い髪型」にしたかったんです。ライトノベルやアニメのキャラクターは、髪を片方だけ編んでいたり、触角があったり、記号を求められることが多くて。大河も最初はそうしたキャラデザがでてきて、「いや、大河は違う」と。女の子の憧れ「ふわふわロングヘアー」で、茶色くて、それでいてお風呂に入るときは結ぶし、プールに行くときはまとめる。そうやってシチュエーションに合わせて髪型を変える子にしたかった。
中川 わかります。そのナチュラルな感じも、私が大河を好きになった理由だと思うんです。十年経っても憧れ続けている、特別な女の子。
竹宮 ありがたいですね。髪型は熱弁して今の形になったので、特に嬉しいです。
中川 竹宮先生の小説は、言葉がお砂糖みたいにすーっと溶けて、さらさらと頭に入ってくる感じがします。読みやすくて。でも、それだけじゃない。グロテスクなシーンも、修羅場の場面も、しっかりある。新作『あなたはここで、息ができるの?』の冒頭も、凄いですよね。
竹宮 ああ、事故で身体が......。
中川 はい。けれど、単純な事故や死では終わらなくて、最終的には心の恋愛が成就する、魂の救いみたいな部分があって、広く考えるとハッピーエンドにも感じられる。
竹宮 新作は中川さんに繋がるところがあって、それはやっぱり「貪欲」なんです。主人公の観波邏々(かんなみらら)は自分の命を燃やして、生き尽くす、その意志を持った女の子。運命に翻弄されながらも、自分が決めたように生きる。ループものを書くと決めたときに、そんな人物が浮かびました。だから、中川さんに読んでもらえたのは、とても嬉しくて。
中川 私は若い頃から残りの寿命を考える癖があって、本を読まなきゃ、美味しいものを食べなきゃ、ってなるのもそうで、若い頃は寝て時間を無駄にするのも嫌で。人生において、楽しいことをやった割合、美味しいものを食べた割合が多ければ多いほど、絶対に笑顔で死ねると、そう思うんです。笑顔で死ぬために後悔しないように、今を生きている、というか。だから、新作で「あのとき、こうすればよかった」と頭の糸をたどる感じも「強さ」に感じられて、いいな、って。
竹宮 「しょこたん味」のある強さなんです、あれは。
中川 ですよね。言葉にすると恥ずかしいですけど、「こんなところで終われない!」という気持ちに、凄く共感します。
竹宮 はい、自分で決めた方向に進んでいく、意志のお話です。
中川 先生は、小説を書くときは何からイメージされるんですか。主人公の像ですか。それとも、物語の流れですか。
竹宮 私はどちらのパターンもあります。普段、心がけているのが、できるだけ自分の感受性をむき出しにしておくことで、風景でも音楽でもテレビでも、何でもいいから自分の感受性に訴えてくるものを常に探していて。飛び込んできたものが「あ、こういう感じの人間」ということもあるし、「あ、こういうテイストの物語」となる場合もあります。そうして受け取ったものから「この人間を魅力的に描くにはどんな物語が必要か」とか「このストーリーが書きたいから、どうしよう」とか、考えてきます。
中川 今回の新作は、どちらからだったんですか。
竹宮 ストーリーですね。ループの物語を一番良い形で表現できるのは、どんな子だろう、と考えながら、主人公を作っていきました。
中川 そうした「表現」の道のりって、改めて伺うと凄いですね。
竹宮 でも、それは中川さんも同じじゃないですか。さっきも言いましたけど、中川さんは本当にいろいろなことに挑戦されていて、世の中ではそれは「マルチだよね」ってことで消化されてると思うんですけど、私は今日お話ししていて「この人は中川翔子という表現を選んだんだ」って感じました。たとえば私は「小説を書く」という表現を選んだんです。自分自身を小説という出口にバスッと通していくと決めた。中川さんは、これは私が勝手に感じたことなんですけど、いろいろなところに在るというより、中川翔子として生きる、それに全力投球している、という感じがするんです。三十代になられたからこそ、その生き方の輪郭がはっきりしてきているような。
中川 嬉しい、嬉しいです。今の言葉で私、成仏しちゃいそうになりました。今日はお話しできて、本当に楽しかったです。ありがとうございました。
竹宮 まだ成仏しないでください(笑)。今日はありがとうございました。
(なかがわ・しょうこ 女優/歌手)
(たけみや・ゆゆこ 作家)