書評
2019年2月号掲載
食わず嫌いは損だ!
内山昭一『昆虫は美味い!』
対象書籍名:『昆虫は美味い!』
対象著者:内山昭一
対象書籍ISBN:978-4-10-610798-6
「昆虫はばい菌の塊。見ただけで虫唾が走る」という日本人のなんと多いことか。
ちなみに「虫唾」とは胃の中の寄生虫が出す唾液という説と、酸っぱい液を出すので「虫酸」という説があるが、どちらも間違い。強い酸性の消化液のなかで棲める虫などいない。
嫌わないまでも、ボーっと生きてると、もとい食べなければ気付かない、実は美味しい虫たちを紹介したい。
・トノサマバッタ【成虫】:大きいので食べごたえがある。飛翔能力が高く、捕るのも楽しい。揚げるとピンクに染まり見た目にも食べやすい。エビ・カニに近い食感。
・タイワンタガメ【成虫、オス】:強面に似ず優しい洋ナシの匂いがする。この匂いはオスが発するフェロモンで、果実やハーブなどに含まれる人にとってリラックス効果のある天然成分。
・モンクロシャチホコ【幼虫】(通称=サクラケムシ):毛虫という外見からは想像できない上品な桜の葉の香りに誰もが驚かされる。旨みも濃い。
・セミ【幼虫】:肉厚で歯ごたえ満点。ナッツ味。燻製もオススメ。
・クロスズメバチ【幼虫・蛹】:小粒ながら旨みが強く、甘辛く煮てご飯に混ぜると、うなぎ丼の風味。長野や岐阜、愛知の伝統食。
・オオスズメバチ【前蛹】:しゃぶしゃぶ風にさっとゆがいてポン酢でいただく。旨みが濃厚で、鶏肉や豆腐に似た風味。繭を作った直後の前蛹が一番旨いとされ、「フグの白子以上」と賞賛される。
・カミキリムシ【幼虫】:直火で焼くと皮はパリパリで中身はトロリと甘い。コクがありクリーミーなバターの食感。マグロのトロの味にたとえられる。ファーブルも絶賛。
同じ種類の昆虫でも与える餌によって味が違ってくる。徳島大学で飼育されている食用のフタホシコオロギは、収穫する十日前からそれまで与えていた混合飼料から、徳島産の干ししいたけ、ごま、さつまいも、すだち、大豆などに切り替える。その結果うま味と香りが数倍強くなる。与える餌によってこれほど違うなら、例えば青森ならリンゴ味とか、栃木ならイチゴ味とか、産地によって違う味の美味しいコオロギを楽しめるかもしれない。
地球は「虫の惑星」と呼ばれるくらい昆虫の種類が多い。都会でも少し郊外へ行けば美味しい昆虫に出会えるし、ましてや地方では都会で住めなくなった虫たちを見つけることができる。私も熊本でクツワムシに出会って狂喜乱舞し、さっそくゆでて塩をふって草食昆虫の優しい味に舌鼓を打った。昆虫は採れたてに限る。冷凍物とは断然ちがう。昆虫を食べることで「食」の多様性を実感できる。昆虫を美味しく食べる秘訣を詰め込んだ本書を片手に、あなたも旬のセミやバッタの味を堪能してみてはいかがでしょうか。
(うちやま・しょういち 昆虫料理研究家)