インタビュー
2019年2月号掲載
著者インタビュー
水しぶき感じる“カヌー小説”の誕生!
――『君と漕ぐ ながとろ高校カヌー部』(新潮文庫nex)
対象書籍名:『君と漕ぐ ながとろ高校カヌー部』(新潮文庫nex)
対象著者:武田綾乃
対象書籍ISBN:978-4-10-180147-6
吹奏楽部を舞台にした大人気青春シリーズ『響け!ユーフォニアム』(以下『ユーフォ』)の著者、武田綾乃さんの次に取り組むテーマは、なんと「カヌー部」。意気込みを著者に聞きました。
――カヌーという題材を選んだ理由を教えてください。
武田 私の弟も高校でカヌーをやっていて、「カヌーをテーマにした小説ってあまり聞かないし、いずれ書いてみたいな」とずっとアイデアを温めてきました。
――ご自身はカヌー経験はないそうですが、取材はどのように行われたのですか?
武田 カヌーの文献も読みましたし、ウェブの記事や You Tube にも当たったり、カヌー部の指導をされている先生やOGの方のお話を聞いたり、大会も何度か見に行きました。
――レースの場面は臨場感たっぷりでした。経験がないのに書くのは苦労されたのではないでしょうか。
武田 実はあんまり苦戦しませんでした。物語展開を考えたりするほうがずっとつらいですね。情景を描くときは、VRを見ているときのように物語のなかに自分を没入させて、そこで感じたものをただ文字で起こすだけなんです。
――それは独特の執筆術ですね! 大人気の『ユーフォ』と同じ"部活小説"である『君と漕ぐ』シリーズを書き始めるにあたり、何か意識した部分はありますか?
武田 次のシリーズ作品では『ユーフォ』とはまったく違うものを、と思っていました。キーワードは、「少人数」「関東」「運動部」の三つです。『ユーフォ』シリーズは吹奏楽部の物語なので部員が百名を超えます。だから『君と漕ぐ』では、四人だけのカヌー部、という少人数の関係性を書きたいと思いました。それと「関東」。『ユーフォ』はほとんどの登場人物が関西弁で会話しているので、標準語のセリフを書きたくて、埼玉の長瀞の設定にしました。そして、「運動部」も書いてみたかった。『ユーフォ』で描いてきた音楽は、「うまい」「へた」の区別はついても、そこから先の評価基準は複雑です。それに比べてカヌースプリントは、タイムで明確に勝ち負けが決まり、速い子が圧倒的に「強い」。もやもやが入り込む余地のない、シンプルさに惹かれました。
(たけだ・あやの)
1992年生まれ。
2013年作家デビュー。
著作に
『響け!ユーフォニアム』
シリーズのほか
『石黒くんに春は来ない』
『青い春を数えて』
『その日、朱音は空を飛んだ』
など。
――武田さんが特に思い入れのあるキャラクターはいますか?
武田 誰か一人というよりも、彼女たちの「関係性」を描くのが楽しいですね。『ユーフォ』のときから、物語を作るときには基本、ペア関係を意識していました。「このエピソードでは、あの子とこの子に焦点を当てよう」といった具合です。
――なるほど。『君と漕ぐ』では、タイトルにもそれが現れていますね。「君」に当たるキャラは物語が進むにつれ変わります。
武田 特に二年生の千帆と希衣ペアは、いままで書いたことがない関係性です。二人がそばを食べつつ、カヌーペアを続けることの限界を悟る場面が、切なくて気に入っています。
――反対に、終盤における希衣と恵梨香が語らう場面には、まるで恋が始まるときのようなときめきがありました。
武田 憧れをともなった友情って、恋愛感情と似ていますよね。誰かと誰かが距離を縮める、あるいは誰かと誰かが自立のために距離を取る、という関係性の変遷をうまく出せたらいいなと思って書いていました。
――すでに「yom yom」では「君と漕ぐ2」の連載がスタートしています。
武田 今後は、「少年ジャンプ」のように、魅力的なライバルをどんどん登場させたいです(笑)。カヌーという競技は知れば知るほど面白いので、この小説をきっかけに興味を持つ人が増えてくれたら嬉しいです!
(たけだ・あやの 作家)