書評
2019年4月号掲載
心を育むパンの力
――吉永麻衣子『発酵は冷蔵庫におまかせ! 子どもと作れる12か月のパン』
対象書籍名:『発酵は冷蔵庫におまかせ! 子どもと作れる12か月のパン』
対象著者:吉永麻衣子
対象書籍ISBN:978-4-10-339414-3
パンって何であんなに美味しいんだろう?
お店を見付けると必ず入って、自分の中のお気に入りを選んで、幸せな気持ちでおうちに帰る。
手作りだとなおさら、みんなに喜んで貰える気がします。
自分のために、家族のために、友人のために、ちょっとしたプレゼントなのかもしれません。
私は京都に住んでいる頃から、おいしいパンがない生活は考えられませんでした。京都は、パンの消費量が全国の中でも多く、物心ついた時には私の母も良くパンを焼いてくれていました。
夜中であろうと、パンの焼きあがるあの香ばしい香りが家に充満してくると、焼きたてがどうしても食べたい! とベッドから抜け出して来て熱々の食パンを食べていました。朝ごはん用に母が焼いてくれていたのに......。
焼きたての耳の部分が実は大好物(笑)。全部食べないでよ! と弟と怒られていました。
今は母のレシピを貰って、我が家の味にしています。
そしていつしか息子も「パン! パン!」と泣き叫ぶほどパンが好きになっていたようです。
バレンタインには、あるキャラクターの顔のパンを作りました。
まだチョコレートは食べられないし、今一番好きなものと言えば、パンしかない。
夜中に、試行錯誤、苦労しながら作りましたが、息子のあの「わぁーっ!」という反応を見ると全てが報われました。
その不器用な見た目のキャラクターのパンを、宝物のように大切に握りしめて、ゆっくり、ゆっくり食べてくれていました。それはもう、愛おしくてたまりませんでした。
食べて美味しいのは勿論ですが、色んなものに形を変えられて、想像力が膨らむのもまた、パンの魅力だなぁと感じる日々です。
私は食育を学んでいますが、パンには食育の要素がギュッと詰まっています。
まず、粉から生地が出来ていく過程です。
子どもに混ぜてもらうことも出来るし、素材のありがたみを知ることが出来ます。
シンプルな素材だからこそ、産地や種類にこだわるなど、バリエーションも無限の可能性を秘めています。
素手で成形だって出来る。指で生地を触って感覚を確かめる。それはどれだけ子どもの脳に刺激が行くのだろう、想像力が膨らむのだろう......。私は、汚れたっていいから思う存分お手伝いして欲しいと思っています。何よりあんな気持ちがいい生地は触らずにいられません。
さらに発酵させて、焼きあがる喜びと言ったら。五感を刺激され、全てが満たされます。
それを家族と共有すること、食卓を囲んで食べることが、健康的な心を育むことだと思います。
この本には一年を通したパンのレシピが載っています。季節を感じ、男の子も女の子も喜んでくれるもの、そして一緒に作れる簡単なもの......。
ママが作ってもいいけれど、息子と一緒にカブトムシや、鯉のぼり、作りたいです。
きっと、息子以上に私が感動してしまいそうです(笑)。
「かわいいね、美味しいね!」。笑顔でパンを囲む時間が私は何よりも大好きです。
この一冊が、沢山の家族の毎日を幸せにしてくれますように......。
(やすだ・みさこ タレント/女優)