書評・エッセイ

2019年11月号掲載

あなたにもきっと「ここ」と思える場所がある

高橋秀実『パワースポットはここですね』

東えりか

対象書籍名:『パワースポットはここですね』
対象著者:高橋秀実
対象書籍ISBN:978-4-10-473806-9

 どうやら今の日本はパワー不足のようだ。元気のない状態が常態になりつつある。高度成長期のイケイケを知っている世代は若者に「覇気がない」だの「やる気がない」だのうだうだいうが、先行きに希望が見えないのなら、元気など出しようがないではないか。
 せめてパワーをもらおうと「パワースポット」に向かうのは、何か縁(よすが)を得ようともがいてのことだと思うのだ。
 もともと高橋秀実は、日本にある世界遺産を巡ってみようと取材を始めたという。「世界遺産、登録決定!」と毎年のように報じられ、目に涙を浮かべて喜ぶ地元民の姿に、その場所はどれくらい面白いのか、観光の効果はどれほどかと調べに赴くと、おもったほど賑わっていない。それどころか更なる財政難を抱え込むことになっていた。
 そうなったのもマスコミのせいだ、と不満をぶつける人に、ではあなたはどこへ行くのか、と問うと「パワースポット」だという。
 たまたまそこが群馬だったので、有名なパワースポットである上毛三山(赤城山、榛名山、妙義山)を勧められる。私などその山の名を聞くと連合赤軍を思い出して少し嫌な気になるが、皆さんそこでパワーをもらうらしい。
 パワースポット、言葉はよく聞くが、改めて意味を考えたことがない。私自身はパワースポットを求めて、どこかへ行ったり、何かを買ったりしたことは一度もないのだ。だが女性誌や旅行先の観光案内には「パワースポットはここだ!」とよく書かれている。
 なんとなくパワースポットに日本の鉱脈を発見したような気分になった著者はこのテーマに喰らいついた。
 改めて「パワースポット」について調べてみると、なんと身のまわりにもたくさんあるではないか。
 定義もあった。「心と身体と魂が何らかの変化やメリットを受けることができる場所」とあり、耳に胼胝(たこ)ができるほど聞く「癒し」の場所であるらしい。自分が心地よくなる場所、意地悪く受け止めれば「あくまでも個人の意見です」ということなんだろう。人は(まあ多くは女性が)パワースポットを求めて旅に出る。それがどんなものなのか著者は日本中をかけめぐることになった。
 群馬の榛名神社、明治神宮の清正井(きよまさのいど)、福島の千貫森(せんがんもり)、岐阜県中津川市蛭川のピラミッドなどなど。
 パワースポットという名詞の生みの親が、かつて超能力少年と言われた清田益章氏だったり、パワースポットがなんたるかを解説してくれたのが「UFOを呼ぶ超能力少年」と騒がれた秋山眞人(まこと)氏だったりと、50代以上には懐かしい人たちが登場すると、「さもありなん」と納得してしまう。その上ガイド役が「ムー」編集長だ。
 ユリ・ゲラーがおこした超能力ブームには私も熱くなった。世の中はスプーンの受難の時代で、止まった時計はないかと家じゅう探し、超能力で芽を出させようと植物の種を買いに走った。そうか、その流れが脈々と保たれ、ここにたどり着いたのか。
「パワーとは何か」から考え興し、重力の原理がまだわかっていないことや、パワーストーンなる特殊な石の話を読むうちに、あれ、ここ知ってるなという場所が出てきた。
 有馬療養温泉は東京から川崎や横浜の北部を走る東急田園都市線の鷺沼駅からほど近い場所にある古い温泉だ。私の自宅からも近く、役小角(えんのおづぬ)の由縁も聞いたことがある。
 著者も近所にお住まいのようで、水や気の流れの話は、実はなんとなく私も感じていたこと。その上、この地元に代々住む知人で『オオカミの護符』(新潮文庫)の著者、小倉美惠子さんまで登場すると、今までの他人事が突然わが身の話となった。私の家は風水的にどうなのだろう、と地図を広げてまじまじと見てしまった。
 信心はしていないと言いながら、私も神社があれば手を合わせるし、触るとご利益があると聞けば撫でさする。巨木には抱き着くし、お金が増えると聞けば湧き水で小銭を洗う。何が変わるでもないけれど、そこで少し元気をもらっているのは確かかもしれない。パワースポットは「ここ」だ。私の手の下、足もと、心のおさまるところ。
 そういえば一度だけ、ああ、ここには神様がいる、と感じたことがある。30年ほど前のバリ島の山の中だった。まるで針で突いたほどのポイントで動けなくなったのだ。後にも先にもそれ一回だが、あれは間違いなく私のパワースポットだった。多分、いまはもうわからない、あの時あの場所が「ここ」だったのだと、本書を読んで腑に落ちた。
 あなたにもきっと「ここ」と思える場所があるはず。

 (あづま・えりか 書評家・HONZ副代表)

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