書評・エッセイ

2019年11月号掲載

スター・ウォーズの敵はなぜ「帝国」なのか

岡本隆司『君主号の世界史』

岡本隆司

対象書籍名:『君主号の世界史』
対象著者:岡本隆司
対象書籍ISBN:978-4-10-610832-7

 スター・ウォーズといえば、ハリウッドで最も成功した映画の一つ、日本人にもおなじみだろう。日本ではじめて上映されたのは一九七八年、すでに四十年以上を閲しながら、なお人気は根強い。筆者も中学生のころからのつきあいであり、ご多分に漏れず、シリーズ作品をいくつも、再放送でくりかえし見たクチである。
 息もつかせぬスペクタクルが大きな魅力なので、それだけに筋立てはごく単純明快。銀河を支配する帝国の圧政に抗して、解放を求めて戦う共和国復興の物語である。美しきヒロインのアミダラとレイアは母娘二代の元老院議員、冷酷非道なライヴァルが独裁権力を握る帝国皇帝という配役で、これまたとてもわかりやすい。
 と思ったところで、考えこんでしまうのが、歴史屋の悪い癖だろう。皇帝と元老院はどこかで聞いたことのある名前、英語も emperor と senate なら、ローマ帝国にほかならない。ひいては、それを受け継いだ欧米の国家・国制の概念である。
 戦闘シーンに興奮した幼い観客のころ、帝国・皇帝が悪、共和国・元老院が善というイメージで、何となく納得していた。しかし東アジアの歴史を学び、否応なく世界史を考えなくてはならぬ歴史屋ともなれば、一概にそうと断言はできない。
 ローマ史あるいは市民革命を経た欧米的な価値観・偏見ではないのか。とりわけ史上はじめて共和制を布いた人工国家のアメリカ合衆国がしかり。元老院ならぬ上院 Senate をおいたのは、実際の機能はどうあれ、はるかローマ共和政への仮託であって、それなら帝国専制へのアンチテーゼにちがいない。だとすれば、それはそのままスター・ウォーズの世界につながる。
 これに対し、東アジアでは二千年来、史上の君主は「皇帝」を頂点に、独自の秩序体系を築き上げていた。皇帝=emperor が悪なら、東アジアの歴史は全くの暗黒となってしまう。まさかそんな史実は存在しない。けれども近代の欧米人は、東アジアを専制体制だと蔑視して憚らなかった。
 差別ばかりではない。二〇世紀になると、アメリカは最後まで残った「帝国」の日本を悪の権化として、露骨に敵視した。自国と同じ共和制に転じた中国を圧迫しているとあっては、なおさらである。大日本帝国は消滅したけれども、そんなアメリカ人のセンスが今もなお、そこかしこに残滓をとどめている。スター・ウォーズの世界的な人気もまた、その一つに数えてよい。
 古今東西、君主号の歴史をたどってみたら、そんな「皇帝」はじめ、いろんな政体と抗争、多様な関係やバイアスが見えてくる。スター・ウォーズはあくまでエンターテイメント、無邪気に楽しむべし。でも歓楽を尽くした後は、少しマジメに考える時間もあっていい。

 (おかもと・たかし 京都府立大学教授)

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