書評

2019年12月号掲載

通貨の未来をどう形作るか

中條誠一『ドル・人民元・リブラ――通貨でわかる世界経済

中條誠一

対象書籍名:『ドル・人民元・リブラ――通貨でわかる世界経済
対象著者:中條誠一
対象書籍ISBN:978-4-10-610837-2

 誰しもが、お金は欲しいと思うだろう。お金があれば、好きな物が買えるし、大概の欲望は満たすことができるからだ。とはいえ、お金そのもので満足(効用)を覚えているわけではなく、それで買うことができる物やサービスによってである。あくまでも、お金の本来の役割はそれらの取引をスムーズにすることにあった。経済を物とお金という二面で見れば、お金は経済の潤滑油であり、脇役といえよう。
 ところが、そのお金が今や主役に躍り出た感がある。そのお金(商業資本)が新たな産業を育成すべく、合理的に投資されていくのならば望ましい。しかし、世界的に金余りの今日では、お金がお金を生む投機にまわされることが多くなっており、経済がカジノ化し、不安定化してしまっている。そうした今日の世界経済の動きは、主要なお金(通貨)を見ずして語ることができないといっても過言ではない。
 物の世界では地位が後退しながら、お金の世界では覇権を握り続けるアメリカ。それ故に、基軸通貨国として法外な特権を享受してきたが、そのツケともいうべき貿易収支赤字、対外債務の累増が無視できない状況になってきている。ようやく、トランプ政権は対応に乗り出すも、経済音痴の大統領の通商政策は的外れ。正道を行く政策によって、ドルを安定化することを強く望みたい。
 世界経済の安定化のためには、ドルに対抗できる基軸通貨が不可欠である。そうした期待を担って登場したユーロであるが、経済格差の大きい国まで仲間に加えたため、危機まで引き起こしてしまった。
 一応、危機は収まりその耐震性は高まったものの、本質的問題を残したままのユーロに、あまり明るい未来を描くことはできない。となると、アジアで脱ドルが進み、新しい通貨圏が誕生するか否かが重要となる。もはや、黄昏の安定通貨といわれる円の復活は望みがたく、人民元がどこまで台頭するかがキーポイントとなろう。
 こうしてドル、ユーロ、人民元が鼎立し、一定の役割を分担する世界。そんなお金(通貨)の未来を描いてみたが、そこへ突如仮想通貨(暗号資産)が割り込んできた感がある。確かに、新しい機能を備えているものの、ビットコインは価値が不安定でお金としては決定的欠陥がある。リブラはそれを克服したといえるが、そもそも民間に通貨を発行させて良いのかという通貨主権にかかわる大問題を残したままであり、安易に容認することはできない。
 各国がデジタル通貨を発行することも含めて、お金(通貨)の未来をどう形作るかが今まさに問われているといえる。その議論に、本書が一石を投じることができれば望外の喜びである。

 (なかじょう・せいいち 中央大学名誉教授)

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