書評・エッセイ

2020年4月号掲載

「送料無料」の裏で起きている様々な犠牲

橋本愛喜『トラックドライバーにも言わせて』

橋本愛喜

対象書籍名:『トラックドライバーにも言わせて』
対象著者:橋本愛喜
対象書籍ISBN:978-4-10-610854-9

「送料無料」という言葉があります。ネット通販サイトが普及する現代において当たり前に使われている表現で、顧客としてはもちろん大変嬉しいサービスの一つです。
 しかし、実際送料が本当に無料なのかというと、もちろんそんなことはありません。運送業者には少ないながらも「運賃」が支払われています。
 にも拘わらず、その送料・運賃がわざわざ「無料」と言い直される。過酷な労働環境や低賃金に歯を食いしばりながら日々走り続けるトラックドライバーからするとこれは、自らの労働価値の否定であり、やるせない気分になるものなのです。
 実際、現役のトラックドライバーからは、「インフラを支えているというプライドだけでここまでやってきているが、送料無料という言葉はモチベーションが一気に下がる」、「直接赴いて買いに行かないのに無料とか都合よすぎる」といった声が届きます。「送料込み」、「送料弊社負担」など、他に言い方はいくらでもある中、この「無料」という言葉が使われる理由には、他でもない「顧客至上主義」、「お客様は神様である」という日本の「おもてなし文化」が背景にあります。
 日本の「おもてなし文化」は、世界が認める「高サービス」の集合体からできています。日本語教師をしていた頃、学生に「日本に留学した理由」を聞くと、毎度トップ3の中に「サービスの良さ」が入っていました。しかし、こうした文化ゆえに、「客」が「神」となる傾向が強くなるのも事実。人をもてなすことは決して悪いことではないですが、「サービス=無料」が当然のカタチとして存在すると、客がクレーマーと化しやすくなり、相手のささいな失敗にも激しく反応してしまう。無料でサービスを受けているということを忘れて。
 こうした「サービス=無料」というカタチが多いのが、運送業界です。
 再配達や時間帯指定などがここまで正確かつ無料で受けられるのも、やはり世界広しと言えども日本ぐらいなもの。私がかつて住んでいた米国のニューヨークでは、サービスを受けるには全てにお金(=対価)が必要でした。
 そんな環境から日本に戻った際にSNSで目撃した「午後5~7時の時間帯指定で、5時1分に来るとか早すぎるだろ」という友人の怒りのツイートは、私にとって非常に衝撃的なものでした。
 本書には、送料を無料とされ、「底辺職」だ「路上駐車は邪魔だ」と言われながらも走り続けるトラックドライバーの苦労や実情を、自身の経験と現役ドライバーからの聞き取りを基に分かりやすく、かつ面白真面目に描いています。普段何気なく受け取っている荷物。読了後、道路でハンドルを握るトラックドライバーや荷物を届けに来る配達員が今までと大きく違って見えるはずです。

 (はしもと・あいき フリーライター)

最新の書評・エッセイ

ページの先頭へ