書評・エッセイ
2020年4月号掲載
私の好きな新潮文庫
光っている本がある。
対象書籍名: 『堕落論』/『そういうふうにできている』/『アナザー・ワールド 王国 その4』
対象著者:坂口安吾/さくらももこ/よしもとばなな
対象書籍ISBN:978-4-10-102402-8/978-4-10-138821-2/978-4-10-135940-3
①堕落論 坂口安吾
②そういうふうにできている さくらももこ
③アナザー・ワールド 王国 その4 よしもとばなな
記憶のある限り、本と共に生きてきた。正確にいうならば、本棚と共に。読書家と呼べるほどの量は読んでこなかったが、家の本棚はいつもぎゅうぎゅうで、その光景を愛している。どこかで本は読み尽くすものではないとさえ思っている。鬼編集者だった祖父の書庫は、昔は庭にあり、書庫というよりほったて小屋と呼ぶほうがぴったりで心なしか傾いており、ギギギ......と木の扉を開けるとむせ返るほどのカビた匂いに包まれた。裸電球をパチリとつけると、黄色い光に照らされて天井までびっしりと色あせた本の壁が浮かび上がり、ギリギリ大人が通れるほどの通路にも本が積まれていた。残念ながら子どもの頃は祖父の仕事に興味を持つことはなかったが、あの小屋にはいつもミステリアスな魅力を感じていた。あの湿度、お化けがでそうな恐怖を含んだワクワクを肌が覚えている。
さて、久々にこの本棚を眺めていると、光っている本たちがあった。いつもこの時が心から好きだ。何を読もうかな〜と、意識と視界をボヤッとさせて眺めると、今手に取るべき本に導かれる。光を放っているかのように自然に。多くの場合、内容さえ覚えていないのに。宇宙からのメッセージを受け取っているような儀式である。
今日、そうして光っていたのは、坂口安吾の『堕落論』、さくらももこさんの『そういうふうにできている』、よしもとばななさんの(10歳頃から影響を受けて育ったので、どうしたって"さん"を付けてしまう、坂口安吾は呼び捨てなのに!)『アナザー・ワールド 王国 その4』だ。

涙を溜め読み返しつつ、他の2冊をめくる。『そういうふうにできている』は著者の妊娠出産体験をリアルに綴ったエッセイだ。痛いこと、恐いこと、便秘で苦しむこと、赤子が猛烈に愛おしいこと......本能的で、計算してもしかたがないことだ。妊娠出産には、なにか大きい力に従っているだけの自分をまるごと肯定するしかない場面が多々ある。
よしもとばななさんの『アナザー・ワールド』もまた、形の見えない直感や霊感に導かれて大事な人と出会い、関係を深めていく。この物語だけではなく、ばななさんの小説の登場人物の多くは見えないものをはっきりと実在するものとして信じ、導かれていく。こじつけかもしれないが、安吾の信じたファルス、ももこさんの本能、ばななさんの霊的で直感的な人との関係性には、形のないものを信じ、導かれるというつながりがあるように思う。この3冊を手に取らせた本棚の中の光を、私はまた信じるのである。
(さかもと・みう ミュージシャン)