対談・鼎談

2020年7月号掲載

武田綾乃『どうぞ愛をお叫びください』刊行記念対談

ゲーム実況への愛をお叫びください

ナポリの男たち × 武田綾乃

武田綾乃氏の新刊『どうぞ愛をお叫びください』は、今っぽさ溢れる爽快な青春小説だ。男子高校生4人が「ユーチューバー」デビューを果たし、ゲームを実況しながらプレイする「ゲーム実況」動画の配信に挑戦する。
今回は、普段からゲーム実況動画を楽しんでいるという著者と、結成4周年を迎えた人気ゲーム実況者グループ「ナポリの男たち」とのリモート対談が実現。「ゲーム実況」の魅力、そしてその内幕とは……?

対象書籍名:『どうぞ愛をお叫びください』
対象著者:武田綾乃
対象書籍ISBN:978-4-10-180247-3

武田 今日はお時間をとっていただきありがとうございます。実は皆さんの活動をずっと拝見しているので、今こうしてお話しできることにとても緊張しています。

蘭たん こちらこそ、お声がけいただいてありがとうございます。今日はよろしくお願いします。

武田 早速なんですが、そもそも、なぜ今回のオファーを受けていただけたのでしょうか。編集者から「この小説について実際のゲーム実況者の方と対談してみませんか」と言われて、ナポリの男たちさんのお名前を挙げさせていただいたのですが、お忙しいだろうし、ひょっとしたらこういうお願い自体も失礼なのかも、とも思って。なので、受けていただけてとても嬉しかったのと同時に、「本当にいいんですか!?」という驚嘆もありました。

蘭たん 先に小説を読ませていただいたんですけど、書かれている内容がすごくリアルだったので、「こんなにゲーム実況にお詳しい人なら、お話しできることもたくさんあるだろうな」と思ったのが一番大きいです。

武田 よかったです! 実際に活躍されている方からそう言っていただけて、ものすごくホッとしました。

すぎる 本当に、読んで感動しました。最後のほうの展開がまたよくて。

hacchi 読み始める前は、ゲーム実況をどうやって小説化するんだろうって思ってたんですけど、編集の描写がすごくリアルで驚きました。「実際にされてるわけじゃないのに、なんでこんなことがわかるんだろう」っていう表現があちこちにあって。

shu3 感情を揺さぶられましたね。中でも、動画の編集担当でもある主人公の松尾君がすごかったです。ここまでいろんなことを考えて1週間かけて編集するとか、高校生でできる人はなかなかいないと思う。

蘭たん 僕も松尾君、印象に残りました。言っていることがどれも外れてないよね。「実況動画をやりたい、それで有名になりたい」っていう人がいたら、まずは松尾君の真似すればいいんじゃないかってくらい(笑)。

hacchi 彼らの動画が伸びる(注1)という展開は最初から考えられていたんでしょうか。

武田 そうですね。エンタメ小説としては、こういう展開がいいかな、と。
 あと、「グレイテスト・ショーマン」という好きな映画があって、サーカス創業者のお話なのですが、冒頭に成功を収めるシーンが流れるんです。視聴者は初めから「この人たちはこのあと成功する」とわかった状態で見始めるんですが、そうするとストレスなく安心して楽しめるんだろうなと思いまして。今作はその構成を参考にして、主人公たちはひとまず成功する、とわかる記述をわざと先に提示しています。

hacchi 最初のページにある「どうぞ愛をお叫びください」(注2)についての説明の記述ですね。同じ実況者としては正直、結成3か月足らずで300万再生という数字を目にして、「凄まじすぎるぞそれは!」とダメージを喰らうところもありましたが(笑)。

蘭たん まあそこは小説だから(笑)。でも動画投稿の世界だとありえないことでもないよね。

4人全員の掛け算

武田 ナポリの男たちさんの動画は、役割分担がなされているロールプレイ式だったり、プレイヤーが順に代わっていくリレー式だったりと、企画性の高いものが多いように思うのですが、どういうふうに組み立てていかれているんですか?

すぎる まず「こういう面白そうなゲームがあるんやけど」という話から始まることが多いですね。ゲームが先にあって、じゃあそれにどんな企画を付けようか、っていうのをチャンネル放送(注3)の終わりとかに4人で相談して、面白そうだったら録る、という感じです。台本とかはなくて。

武田 個人の動画とグループでの動画とでは、やっぱり作り方が違いますか?

すぎる 全く違いますね。4人のほうが、面白くするのは難しいです。なので、話し合いは結構複雑ですね。

蘭たん とはいえ、とりあえず録ってみよう、っていうパターンが多いかなあ。

すぎる 結成当初は、録る前に1か月とか2か月話し合うっていうこともありましたけどね。でも結局、それじゃ続かない、ってなって(笑)。

shu3 どこかで、テンプレートっていうか、型みたいなものが作れたら楽だなって思うときもあったんですけど。それは無理なんだな、っていうのが最近わかってきました。

hacchi ほしいけどね、テンプレ(笑)。「鉄人」(注4)のときみたいに、気負わずやってみたら面白かった、っていう感じで偶発的にとれる動画もあるんですけど、それを毎回狙って出すのは不可能に近いですね。結果、とにかくやってみるしかない、という。

蘭たん 4人全員が掛け算になっている動画ができれば理想ですね。

shu3 ひとりだと、自分の裁量で100点の動画を目指せるんですけど、4人だと、20点になったり、200点になったりします。そこが難しいですよね。

すぎる 録り方もはなから違いますしね。個人実況やとゲームの中にいる人みたいに振る舞って喋るんですけど、グループ実況やと、友達とゲームをやるような感覚というか。

武田 コントロールできる割合が減るという感じなんでしょうか。

蘭たん そうですね。なので、いまだにグループに関してはよくわからないです(笑)。個人だと、大体こうすればいい、っていうのはあるんですけど。

hacchi でも、4年前と比べれば、ちょっとは見えてきたよね。

すぎる うん、初期の頃よりは。

武田 ナポリの男たちさんの動画って、一つ一つの動画の密度が濃いですよね。エンターテインメントとして濃密というか。それが本当にすごいな、といつも思って見ているんですが、その裏にある大変さを、今日またしみじみと感じました。

蘭たん ありがとうございます。なるべくそうしたいなと思いながら作ってはいます。でも、大変さは実況に限らずですよね。実写動画(注5)とか、どんだけ大変なんだって思います。あれに比べたら、ゲーム実況は楽なほうなのかも。

shu3 たしかに。企画を毎日考えて実写動画を撮って編集するって、凄まじいですよね。

hacchi あれはゲームに頼らないから個人の実力勝負だもんね。

「簡単そう」と思った人が向いている

武田 皆さんから見て、ゲーム実況者に必要な才能ってなんだと思われますか?

蘭たん うーん、客観性じゃないでしょうか。それこそ松尾君は、自分のことを客観的に見られているから、向いてたんだろうなと思います。

shu3 僕が思うのは、自分だけの楽しみとか自分のユニークな部分を、人に伝える努力ができる人かなって。

蘭たん たしかに。それが個性になったりするよね。

hacchi shu3はそれを最初からやってたのがすごいよね。

shu3 僕は比較的後から投稿を始めたので、いろんな動画のいいところを真似しましたね。

すぎる でも、実況って簡単そうやなと思わんかった?

shu3 最初はめちゃくちゃ簡単にやってるなって思ってました(笑)。

すぎる たまに、別ジャンルのクリエイターの方とお話しすると、「実況って難しそう」とか「できる人はすごい」みたいなことを言っていただいたりするんですよ。でも、僕が思うに、最初に「難しそう」って思う人よりも、最初に「簡単そう」と思った人が向いてそうやな、と。

蘭たん 俺も、「自分でもできる」と思ってはじめたからね。

shu3 4人ともそうですよね。

すぎる そうそう。だから、そんなに特殊な才能とかじゃないんですよ、たぶん。松尾君が作中で言ってることって基本的なことだけやと思うんですけど、むしろそれが全部ってくらい。

蘭たん 僕らからしたら、作家さんのお仕事こそすごいなあと思います。文字だけで何百ページもある本を生み出して。

hacchi 客観性の塊だもんね、本って。

shu3 しかも、生み出してから受け手に渡って反響が返ってくるまでに長いスパンがかかりますよね。モチベーションを保つのが大変そうだなと思います。

武田 現代に向いてない仕事だなとは思いますね(笑)。それこそ、ゲーム実況を見ながら書いたりしています。

shu3 武田さんは、ゲーム自体、お好きなんですか?

武田 はい。もともとゲームが好きで、それでゲーム実況を見始めて、という感じです。

shu3 作中に出てくるゲームも幅広いですよね。

蘭たん 「Hearts of Iron」(注6)とか、「Civilization」(注7)とか、「オーバーウォッチ」(注8)とか......。

武田 好きなゲームを並べました(笑)。

hacchi どれも実際にプレイされたゲームなんですか?

武田 ほとんどはそうです。ただ、作中の4人は現代の高校生なので、その世代がやっているゲームを調べたり、あとはちょっとマイナーなものもわざと入れたりしましたね。

すぎる そういえば、松尾君は「Civilization」とかが好きだと言ってましたが、実況ではそういうゲームを選ばずに、だいたいパーティーゲームを選んでるのはなぜなんですか?

武田 最初に、それぞれのキャラクターごとに「好きなゲーム」を決めてまして、それは性格と呼応させています。松尾はすごく分析力がある男の子なので、自分の好きなゲームはあまり実況に向いていないと思ったのかな、と。男子高校生4人が集まってまじめに「Hearts of Iron」をやるのは、あんまりウケないかなって思ったんじゃないですかね。

4人 ああー。

蘭たん 高校生でそれがわかるのがすごい。

hacchi さすが松尾君!

蘭たん 書く時にもとになる部分って、過去に自分が見聞きしたものだったりするんでしょうか。

武田 そうですね、今回の小説もそうですが、やっぱり自分が好きなものの方が、書いていて楽しいので。

蘭たん 僕は最近、10代の頃の自分にめっちゃ助けられてるなあと思うことが増えました。当時、好きだった漫画とか、ゲームとか、テレビ番組とか。だから、今興味を持ってるものが、向こう10年の自分を作るのかなって考えることがあります。

shu3 最近、映画とか漫画とかよく見てるのもそれでですか?

蘭たん それは単に暇つぶし......。

一同 (笑)

shu3 でも、そんなもんですよね。

蘭たん 10代のとき、この先の自分のためだなんて思って見てないからね。

hacchi すごいわかるなあ。10代のときに何を面白いと思ったかで、人生は変わると思う。

武田 そういう感性って、未成年の時に固まる気はしますよね。

蘭たん ただ、僕らが10代のときに面白いと思ってたものが今は面白いものじゃなくなってたりするし、価値観はアップデートしてかなきゃいけないなあとは思いますけどね。

武田 ナポリの男たちさんって、そのバランス感覚もしっかりされていますよね。昔から好きだった人が時代に合わない物言いをしていると悲しくなるのですが、皆さんの動画はいつも全力で好きでいられる。それが本当にありがたいです。

蘭たん こちらこそ、そう思ってもらえてるのはありがたいです。今ってそういう感覚がすごい重視される時代だと思っているので......。今、破天荒な方向で成功できる人は本当に一握りだと感じます。

すぎる そういう方向やと、カルト的な人気になる感じやな。

蘭たん 何年か前はむしろ、破天荒なことをする人のほうが評価されてましたけど。

hacchi それは社会全体の傾向とも連動してそうですよね。お笑い番組が減って教養系の番組のほうが多くなった、みたいな。

shu3 価値観の根っこの部分は変わらなくても、見せ方の部分をきちんと更新できていればなんとかなるのかなーと思います。

すぎる たしかに。ええこと言うわー。

実況者同士の繋がりの作りかた

武田 作家は家に籠って書いている人が多いので、作家同士での友人関係を築きにくいなあと思うことがあるんですが、実況者の方って、どのように友人関係を作られていくんでしょうか。

すぎる 僕らが始めた頃は、まだ実況者の数が少なかったので、世界が狭くて。みんな、直接の知り合いではなくても、存在はなんか知ってるぞ、という感じでしたね。それで、大型ラジオ(注9)の企画があったときに知り合ったりとか。蘭たんが僕にメールくれたのも、蘭たんがやってるラジオへのオファーっていう形やったし。でも今は世界が広くなったので、あんまないよね、そういうのって。

蘭たん 実況者同士で新しく友達になるって、今は機会が少ないと思いますね。

武田 結構レアなんですね。

すぎる 僕もshu3には自分からメールしたんですけど、動画見て「めっちゃ面白い、この人と話したい」と思って、マイリス(注10)を見たら、僕と蘭たんの動画があって、「これ絶対いけるやん」と思って。

shu3 趣味が合う、みたいな?

すぎる それもそうやし、自分の動画のことも好きでいてくれるって確認とれたから、もう勝ちゲー(注11)やん。

shu3 たしかに(笑)。

すぎる それで、「遊ぼう」ってメールして。

武田 皆さん、結構自分から積極的にいかれるんですね。

すぎる でも、その時くらいですね。何かきっかけがないと、なかなかね。

蘭たん 今はツイッターとか、SNSでつながってるのかもしれないですね。

hacchi ゲーム実況者は「ゲームが好き」っていう前提が共有できているので、「一緒にモンハン(注12)やろう」とか誘えるのはありますね。

すぎる そこは気軽よな。

武田 動画投稿に加えて毎週欠かさず生配信をされてますが、配信のトークテーマや企画を練られているときに、スランプとかってあったりされるのでしょうか? 私がいつも締切に追われているせいかもしれないですけど、ラジオのように期限のあるものだと、「思いつかない」というようなこともあったりするのかなあ、と。

蘭たん チャンネル放送の内容に関しては、自転車操業で毎週なんとかひねり出してます(笑)。企画は担当メンバーに任せっきりですけど。

shu3 放送は4人だから毎週続けられてる、というのはあるかもしれないですね。1人でやるのと比べれば、単純に負担が4分の1なので。

蘭たん スランプかあ......それでいうなら、最近はずっとスランプだけどね。

hacchi えっ? 何いきなり(笑)。

蘭たん いや、YouTubeでどういう動画を出せばいいか、いまだに悩み続けてるなって。

shu3 それを言ったら、そういうのが定まってた時期ってありましたっけ?(笑)

すぎる ないな。

hacchi もう落ち着いたな、って思ったことはない。

shu3 むしろ、この感じが一生続くのかなって思ってます、最近は。

蘭たん 確かに(笑)。

武田 私も常に自転車操業なので、皆さんも同じなんだとわかって、なんだかちょっと安心してしまいました。これからもずっと応援しています!

 (たけだ・あやの 作家)
 (ナポリのおとこたち ゲーム実況者グループ)


[注1]再生回数が伸びる、の意。
[注2]作中で4人が組む実況グループ名。そのまま本のタイトルにもなっている。
[注3]週に一度行われている、有料会員向けの生配信。4人が週代わりで企画を立て、生配信内で披露している。
[注4]動画「神ゲー『鉄人28号』を4人で対戦」のこと。
[注5]ゲームなどの画面ではなく、本人が登場する動画のこと。
[注6]第二次世界大戦をテーマとするPCの歴史シミュレーションゲーム。
[注7]人類文明の歴史と発展をテーマにしたターン制のストラテジーゲーム。
[注8]未来の地球を舞台に様々な特殊能力を持つヒーローとなり、6人のチームで対戦するアクションシューティングゲーム。
[注9]多人数によるラジオ配信のこと。ラジオ配信とは、動画より音声での話をメインとした生配信のことを指す。
[注10]マイリストの略。ニコニコ動画で、好きな動画をブックマーク(お気に入り)として保存することができる機能。
[注11]勝てるゲームのこと。非常に有利で、勝つことがほとんど決定しているような状況。対義語は「無理ゲー」。
[注12]モンスターハンター。ハンターとなったプレイヤーが巨大なモンスターを狩る、人気アクションゲーム。

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