書評
2020年9月号掲載
番号の楽しみ
佐藤健太郎『番号は謎』
対象書籍名:『番号は謎』
対象著者:佐藤健太郎
対象書籍ISBN:978-4-10-610873-0
筆者の本業は化学・薬学系のライターであるが、一方で国道めぐりという妙な趣味も持っており、これまで監修を含めて三冊ほどの本を出している。
鉄道マニアならわかるが、なぜ国道などに興味を持ったのかとよく聞かれるのだが、大変説明に困る。自分自身その理由をずいぶん考え、はたと思い当たったのが、列車は名前で呼ばれるが、国道は番号で呼ばれるという点であった。
筆者は小さい頃からなぜか1から順に番号がついたものが好きで、野球選手も顔は覚えていないのに背番号だけは記憶していたりする。本業である化学も、その基礎となる元素には、1から順に原子番号が振られている。なるほど、自分は番号が好きであり、番号がついたものは1から順に全てゲットしたくなる性格であったのだ。
というわけで、なぜ国道が好きかと問われた際には、「番号が好きだからだ」と答えるようにしたのだが、残念ながら相手の怪訝そうな表情は解消されるどころか、二倍ほどになってしまった。ただ数字が並んでいるだけのものの、何がそんなに面白いのかと思うらしい。
だが番号というものは、いろいろな謎の宝庫でもある。国道100号はなぜ存在しないか、テレビのチャンネル番号はなぜ地域によってバラバラなのか、住所の丁目や番地はどうやって決まるかなど、よくよく見れば番号は謎だらけであり、調べればそれぞれに理由があるのだ。
ということで勢い余って書いてしまったのが、今回の新刊『番号は謎』である。電話番号、郵便番号、車のナンバー、天体番号、学校や銀行、パソコンや車の型番からマイナンバーに至るまで、身の回りの番号の起源と謎を追いかけた一冊だ。
書き始めてみて驚いたのは、世の中には番号に関する資料が、実に少ないことであった。これほど番号は身近に満ち溢れていながら、その存在は誰にも意識されず、誕生や発展の経緯も記録に残りにくい。というわけで、執筆には予想以上に苦戦し、ずいぶん時間がかかってしまった。
もう一つ面白かったのは、番号と人間の関わりだ。番号で呼ばれたことに逆上して身を滅ぼしてしまった政治家もいれば、ひと財産をはたき、弁護士を立ててまで好きな背番号を手に入れたサッカー選手もいる。番号による図書の分類整理に生涯を捧げた者もいれば、国民総背番号制の導入に人生を賭けて抵抗した者もいる。企業の栄枯盛衰にも、番号は重要な役割を演じている。番号などただの数字と、簡単に斬って捨てられないのだ。
我ながら妙な内容ではあるが、逆に言えば類書の全くない本でもある。さらに、カバーの裏にはISBNやバーコードなど四種もの番号が印刷されており、その点でも大変お買得であるので、ぜひお買い求めいただきたいと願う次第である。
(さとう・けんたろう サイエンスライター)